【森島 賢・正義派の農政論】トランプの微妙な立ち位置2019年5月27日
トランプ大統領が日本へ来た。日米首脳会談が行われるが、共同声明は出さないという。参院選を直前にひかえて、不都合なのだろう。警戒すべきことである。
トランプは、見たところ強気一辺倒のようだが、そうではない。多くの評論家は、彼の無知性ぶりを嘲笑しているが、そうではない。彼の方が、よほど深い洞察力を持っている。そうして、2つの勢力のなかで、微妙な位置に立っている。
2つの勢力の一方は、アメリカの財界、つまり市場原理主義を信奉する経済的強者の資本である。トランプは、その立場に立っている。だから、資本の自由を謳って、海外では中国を圧迫し、国内では経済的弱者の困窮を放置する。
だが、それだけでは、弱者の支持を失い、大統領の地位を追われる。だから、他方では「アメリカ第一」などといって、国民の大多数である弱者の味方のように振る舞っている。
こうした位置に立って、微妙な支持を保っている。
トランプは、弱者と強者の中間の位置に立って、両者から微妙な支持を得ている。世論調査をみると、40%の支持率を保っているが、その理由は、ここにある。
このように、アメリカの政治は、弱者と強者のあいだの、せめぎ合いのなかで決まっている。トランプの「強気」と「無知性」で決まっているわけではない。弱者と強者との力関係の中で決まっている。
◇
経済的強者である資本は、自由を標榜する。しかし、それは多くの国民が幸福を追求する自由ではないし、人生を謳歌する自由でもない。それは政治的には保証するが、経済的には保証しない。これが、強者がいう自由である。その根本には、強者が弱者を搾取する自由がある。
これに対抗して、弱者は資本がいう自由に反対する。そうして、資本の自由に対する経済外的な制約を主張する。つまり、政治の力による制約を主張する。
このように、資本の自由を主張するか、資本の自由を制約する主張をするか、によって2つに分かれる。これが根本的な分岐点である。
◇
米中交渉をみてみよう。
トランプの中国に対する不満は、国営企業と主要な民間企業に対する多額の国家資金の投入である。それは、国家による企業活動の制約であり、経済活動の支配である。トランプは、それに反対して私的な資本の自由の拡大を要求している。
しかし、習近平国家主席は譲らない。中国は、主要な生産財は社会の所有にして、私的な所有を認めない。それを国是にしている。そうして、資本の自由を制約している。
このように、トランプと習の国家観の間には、越えられない違いがある。
◇
ではどうするか。武力で相手を屈服することはできない。たがいの弱点を批判しあいながら、短所を直し、長所を伸ばすようにして妥協点を見つけ出すしかない。
トランプは、経済に政治は介入しないという自由経済の考えだが、実際には関税合戦を行っている。これは政治介入以外の何物でもない。
また習は、主要産業は国営、という社会主義の考えだが、それ以外の産業は自由市場に任せている。
だから、両者の間には妥協の余地が十分にある。
◇
妥協点は、どこにあるか。
生産力の高い社会が生産力の低い社会にとって代わる、というのが唯物史観の教えるところである。それは、協同組合経済社会に近いところにある。
そして農協は、その先進的で主要な部分を占めるだろう。
(2019.05.27)
(前回 東アジアの体制間抗争)
(前々回 弛緩した政治)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日