【熊野孝文・米マーケット情報】需給を反映したコメの価格形成を考える2019年6月5日
6月17日(月)午後1時から東京大学弥生講堂で「需給を反映したコメの価格形成を考える」と題したコメのシンポジュウムが開催される。(参加費無料)
主催するのは農業経営支援連絡協議会(一般財団法人日本GAP協会、一般社団法人日本食農連携機構、公益社団法人日本農業法人協会、特定非営利活動法人日本プロ農業総合支援機構)で、シンポジウムでは、はじめに新潟ゆうき㈱佐藤正志社長が「農業現場の変化を考える」と題して基調講演するほか、パネリストとして農業ジャーナリストの青山浩子氏、JA大潟村の小林肇組合長、中嶋康博東京大学大学院教授、平石博全国稲作経営者会議会長が登壇し、パネルディスカッションが行われることになっている。
シンポジウムの表題の通りの議論が行われるとすれば、まず、最初に現在のコメ価格は需給を反映したコメの価格形成がなされているのかという現状認識から始めなくてはならない。パネリストにより現状認識に差が出てくることはやむを得ないが、米価を上げるために非常に危険な政策手段が用いられているので、まずそのことをどう見ているのかに触れてもらいたい。
◇ ◇
危険な政策手段とは令和元年産政府備蓄米買入入札のことで、農水省は生産者の同意がなくても農協等が売り渡すことができるとした。これは生産者が農協等に主食用米として販売委託したものが農協等の判断により政府備蓄米に売り渡すことができるようになることを意味している。農協のコメの共同計算は、主食用米と、飼料用米や加工用米などの新規需要米とは別共計になっているところもあるが、一緒にしているところもある。双方を一緒にしている農協が共計に委託されたコメを生産者の同意なしに政府備蓄米に売り渡した場合の制度的な位置付けはどうなるのか?
飼料用米、米粉用米、加工用米、輸出用米といった新規需要米の括りの中に入れられているコメは、そうした用途に売り渡すことにより「コメによる生産調整がなされた」という判断のもとに転作作物として助成金が支給されている。農水省のルール変更によりそれらを政府備蓄米に売り渡し最終的に共同計算して生産者の手取りを確保するということもできないわけではない。
しかも政府備蓄米の買入価格が60kg1万3850円にもなり、農水省はこの価格について「主食用米に比べ遜色ない価格」と説明している。共同計算で生産者の手取りを均すことになればコメによる生産調整という大前提が崩れることになるのではないか。
もう一つ付け加えるならば、加工用米は主食用ではないという位置づけで冷凍米飯や清酒原料として供給されている。冷凍米飯も清酒用の掛け米も主食用米も使っており、加工用として認めるか否かは農水省の判断による。つまり、主食用米の供給にはこうした制度的な要素が深くかかわっており、このことを抜きにした需給見通しは意味がないのである。それは単にややこしいコメ政策の制度の中で出来上がったものとして見過ごすわけにはいかない。実際、現在、現物市場でスポット価格が値上がりしていることやコメ先物市場で令和元年産の受渡し限月になる期先限月の価格が上がっている要因は、「政府備蓄米の落札価格が元年産米の下限スタート価格になる」と見られている点や強引ともいえる政府備蓄米応札要請で元年産主食用米の作付が減少するのではないかとの見方が台頭していることにある。
そもそも生産調整数量配分を国が止めたのは生産者の判断に任せることにしたためでそれを生産者の同意なしに政府備蓄米に売り渡すことを認めたこと自体に政策的な矛盾がある。
まさに考えなければならないのはそうしたことで、高米価政策は以前にもまして強烈に推進されているというのが正しい認識で、需給を反映した価格形成など行われていない。百歩譲って高米価政策の中でのコメの価格形成という捉え方であれば、米価が上がることによるコメの消費減をどう見るのかという点だけでも議論してもらいたい。
パネリストの中には専門家もいるのだから令和元年産が値上りしたらどの程度のコメの消費減を招くのかといったタタキ台程度の数字は出せるはずである。過去の需給データからはコメの価格が上がった時ほど需要量減の数量が大きくなっていることは一目瞭然であり、元年産が値上がりすれば5年連続の値上がりで、その分需要量が減退、市場がシュリンクする。政策的にコメの価格を上げ、市場をシュリンクさせることが良い事なのか、そのことにも踏み込んで議論してもらいたいものである。
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