【小松泰信・地方の眼力】嘘つきの、抱きつき、泣きつき、運の尽き2019年6月12日
「妊婦税だ」といった批判が相次いだため、今年1月に凍結された、妊婦が外来受診した際の初診料などに上乗せされる、いわゆる「妊婦加算」が、2020年度から名称を変えるなどして再開される方向にあることを多くの新聞が伝えている。
◆妊婦加算が再開されれば国難は突破できず
読売新聞(6月8日付)の社説は、この問題を取り上げ、再開の課題として、「妊婦への診療内容に応じて、診療報酬に適切に加算される仕組みを作ること」を挙げ、「妊婦の経済的な負担をいかに軽くするかも重要な論点」とする。さらに、当該有識者会議 で出された「自己負担の増加によって、子どもを欲しいと思う人が妊娠をためらわないようにする方策を検討すべきではないか」という意見を紹介している。
皮肉なことに、同紙の一面には、厚生労働省が7日に2018年の人口動態統計(概数)を発表したことを受け、「1人の女性が生涯に産む子供の推計人口を示す合計特殊出生率は1.42で、3年連続で低下した。......人口減少は今後も拡大する見通しで、少子化の克服が課題」とのリード文が記されている。
先の衆議院解散における大義の一つが少子化問題であった。だとすれば、妊娠・出産・子育てにこれまで以上の支援をするのが普通の人間が考えること。いかに普通ではない人たちが制度設計にあたっているかを物語っている。妊婦加算再開に大義なし。
◆ファンドの資格なきA-FIVE
日本農業新聞(6月11日付)によれば、農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の累積赤字が2018年度末時点で約92億円に膨らむ見通しとなった。同機構は農林水産業を振興する目的で、2013年に官民共同で設立された投資組織。17年度末時点で約64億円の累積赤字で、これに2018年度は、香港に果実や畜産物の輸出に取り組んでいた出資先企業が破綻するなどした影響で、約28億円の損失が加わるようだ。所管する農水省の産業連携課は、「投資実績をしかり伸ばし、経費をペイ(支払い)できる体制を整えないといけない」としている。
同紙は、他人事のように淡々とベタ記事的に伝えている。しかし毎日新聞(6月9日付)は、次に紹介する関係者の声などから「不振の背景には、投資計画の見通しの甘さや組織の硬直的な体質も浮かび上がる」とする。
「生産者にとっては国の補助金や日本政策金融公庫の低利融資を使うことが一般的で、認知度のないファンドにはなかなか手を伸ばしてくれなかった」(A-FIVE総務部長)
「官民ファンドなのに農家を育てる気がない。農業は非常に息の長い商売なのに」(利用者)
「6次産業化のスローガンはイリュージョン(幻想)だった。その犠牲を、A-FIVEが国から押しつけられているのではないか」(財務省財政制度等審議会分科会委員)
田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)は「農業を支援する公的な組織は日本政策金融公庫や農協などが既にあるので、そもそもA-FIVEという新たな組織を作る必要はなかった。速やかに清算し、含み損のある投資案件を売って損失額を確定すべきだ」と、手厳しいコメントを寄せている。
同ファンドは、社用車をなくし本社機能を賃料の安い事務所に移転するなど、経費削減を進めるようだ。破綻した出資先企業の事実上の責任者でもあった同ファンドの役員は退任予定。ところが、退職慰労金1400万円は満額支払われる見通しとのこと。普通の人なら辞退するが、いかがなさいますか。
◆JAグループは官邸農政を支持!?
日本農業新聞(6月6日付)は、「参院選比例代表 農政連、試させる結集力 農協改革の行方左右も」という見出しで、JAグループの農政運動組織である全国農業者農政運動組織連盟(農政連)が、夏の参院選で自民党から比例代表に出馬する組織内候補者の支持拡大に力を入れていることを伝えている。
候補者は「准組合員の利用規制は絶対に認められない。日米交渉では農産物を守らなければならない」と訴え、同行した県農政連幹は「JAの将来を左右する重要な選挙だ」と、危機感を募らせているようだ。
改正農協法が、准組合員の利用規制の在り方を検討するのは政府、と定めているため、「インナー(自民党農林幹部による非公式会合)」の一員である候補者の得票数が伸び悩めば、彼はもとよりJAグループの影響力が弱まりかねないことを、関係者は危惧する。全国農政連は3月の通常総会で、「これまで以上の組織の結集力により引き続き国政の場へ送り出す」と決議している。
同紙の隣の紙面では、全国土地改良事業団体連合会(全土連)も5日東京で集会を開き、政府に農業・農村整備(土地改良)事業予算の増額を強く求めたことを伝えている。
同連合会会長の二階俊博自民党幹事長は「役所に行って、ぺこぺこ頭を下げたってしょうがない。選挙で票を出して、すごいぞと思わせなければいけない」と強調し、夏の参院選を通じ、財務省に政治力を見せつけるべきだと訴えている。
間違いなく、JAグループにも檄を飛ばしている。その檄を受けてか、予定の行動か、農政連が6日、参院選の選挙区の推薦候補者を決めたことを日本農業新聞(6月7日付)が伝えている。40人(自民党38人、公明党2人)の推薦で、今後、申請があれば追加で推薦することもあるそうだ。現時点で政権与党候補者のみ。あえて言うまでもないが、政権与党の農政、すなわち官邸農政を支持している、と解釈されても否定できない状況である。
◆すごさの見せどころを誤るな
日本農業新聞(1月4日付)のJA組合長アンケート結果では、野党の伸びを期待する組合長が多数派であった。当コラムは、「自民党候補者しか推薦しないような全国農政連の意思決定は、組合長の総意とは明らかに異なっている。これは民主的な組織の意思決定ではない。それとも、JAグループは民主的な組織ではないということか。さぁ、どっちだ」と問いかけた。
「嘘つき政治家にぺこぺこ頭を下げたってしょうがない。選挙で票を出して、政権交代を起こし、JAグループはすごいぞと思わせなければいけない」と、まっとうな檄を飛ばしたい。
朝日新聞(5月28日付)の天声人語は、「抱きつき、泣きつき」と言う言葉で、安倍首相のトランプ氏への度外れた厚遇ぶりを見事に表現した。
これに拙きマクラとオチをつけさせていただき、「嘘つきの、抱きつき、泣きつき、運の尽き」を願うばかりである。
「地方の眼力」なめんなよ
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