【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(135)中国の食肉市場:どこにどれだけ潜在力があるか2019年6月14日
前回、中国におけるアフリカ豚コレラ(ASF:African Swine Fever)の話を紹介した。ASFの影響は極めて大きく、中国の豚肉消費量は2018年の5404万トンから2019年には4850万トンへと554万トンの大幅減少見込みである。いくら母数が大きいとはいえ、この減少量は他の食肉の需給へ大きく影響する。だが、留意すべき点はそれだけではない。
牛肉・豚肉・鶏肉という形で中国の食肉需要全体の変化を比較すると興味深いことがわかる。筆者は中国語が出来ないため米国農務省のデータを用いる。牛肉・豚肉・鶏肉の各項目だけでなく、これらを合算し現在の中国の食肉の需給状況をざっと想像してみたい。
全体として、中国国内の食肉生産は前年比94%だが、これは先週も紹介したとおり、豚肉生産量が前年比90%だからである。タンパク質を何から摂取するかという視点で見れば、豚肉の減少分が他の食肉にシフトしただけである。このうち、牛肉の増加分は12.5万tとわずかであり、主体は鶏肉の95万t増である。足りない分を手っ取り早く補うには牛肉よりもサイクルが短く価格も安い鶏肉ということだ。
実際、輸入数量を見ると、牛肉・豚肉・鶏肉の全てで大きく増加が見込まれている。その中でも鶏肉の輸入数量は2018年の約34万tから2019年には約58万tと、7割近く伸びている点が目を引く。前年比で見た場合、牛肉は115%、豚肉は141%であり、これも着実な需要増加だけでなく、ASFの影響が顕著に表れている。
また、牛肉輸入数量は2年前から見るとほぼ倍増である。豚肉の需要増加はASFによる国産の減少の影響と理解してもよいが、牛肉についてはそれ以外にも食生活全体の変化と合わせて検討する必要がある。13.8億人の食肉嗜好が牛肉に向いた時、中国の輸入数量はこの程度ではない。だが、この点はまだ不確定要素が多い。
※ ※ ※
さて、2019年2月に公表された米国農務省の長期見通しでは、10年後、2028年の中国の食肉輸入数量は、牛肉約189万t、豚肉約210万t、鶏肉約60万tであり、牛肉を除き、豚肉、鶏肉は公表後半年も経たずに既に10年先の予想を上回る形で現実が進展している。将来予想が難しいと言われる所以だ。
この長期予想におけるマクロ経済環境の前提は2018年8月時点である。農林水産省のHPを見ると、中国におけるASFの発生は2018年8月以降である。つまり、米国農務省が長期予想の大前提を整理した時点では、ASFはまだロシアやヨーロッパなどでの疾病であり、中国を含めたアジア各国にはほとんど影響がなく、前提条件にはほとんど含まれていないということが推定できる。来年2月はこれをどう修正するのだろうか。
最後に中国の食肉の国内消費数量を総括すると、牛肉824万t(前年比104%)、豚肉5054万t(同91%)、鶏肉128万t(同110%)、合計で7158万t(同96%)になる。
数字の遊びとして、これらを13.8億人で割ると、牛肉5.9kg、豚肉36.7kg、鶏肉0.9kgとなる。これらの数字は統計の算出基礎の違いや人口を概数としたため厳密さはないが、大まかな傾向として見ることは差し支えあるまい。日本の食料需給表における供給純食料では平成29年度で1人1年あたり牛肉は6.3kg、豚肉12.8kg、鶏肉13.4kgである。中国人の消費量は、牛肉は似たようなものだが、豚肉は日本の約3倍、鶏肉に至っては約15分の1と推定できる。
仮に、アジアの成功モデルを日本とした場合、この違いは今後、中国市場の中で、何がどこまで市場拡大可能性があるかと見る戦略的視点のひとつになるというのが筆者の見立てである。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
業務用米の特徴を紹介 播種前・書面契約のリスク管理 東京で業務用米セミナー&交流会2025年12月23日 -
【26年度畜酪決着の舞台裏】加工補給金上げ12円台 新酪肉近で全畜種配慮2025年12月22日 -
配合飼料供給価格 トン当たり約4200円値上げ 2026年1~3月期 JA全農2025年12月22日 -
鳥インフルエンザ 岡山県で国内8例目2025年12月22日 -
【今川直人・農協の核心】農協の農業経営をめぐる環境変化(3)2025年12月22日 -
日本産米・米加工品の輸出拡大へ 意見交換会「GOHANプロジェクト」設置 農水省2025年12月22日 -
令和7年度スマート農業アクセラレーションサミット開催 JA全農2025年12月22日 -
「JA全農チビリンピック2025」小学生カーリング日本一は「軽井沢ジュニア」2025年12月22日 -
農政無策【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月22日 -
【人事異動】ヤマタネ(2026年1月1日付)2025年12月22日 -
国産食肉シンポジウム「国産食肉が食卓に届くために」開催 日本食肉消費総合センター2025年12月22日 -
岡山県鏡野町と「災害時における無人航空機による活動支援に関する協定」締結 福田農機2025年12月22日 -
「英国The Leafies 2025」粉末緑茶「あらびき茶」が金賞受賞 鹿児島堀口製茶2025年12月22日 -
「かごしまスマートファーマー育成セミナー」令和7年度の受講生募集 鹿児島県2025年12月22日 -
日本トリム 農業用電解水素水整水器を活用 いちご「肥後こまち」販売開始2025年12月22日 -
宅配インフラ活用 地域を見守り子育て応援 九十九里町と連携協定 パルシステム千葉2025年12月22日 -
大分県大分市佐賀関大規模火災お見舞い金100万円を拠出 コープデリ2025年12月22日 -
新春は「いちごと洋梨のケーキ」丹頂鶴をフルーツで表現 カフェコムサ2025年12月22日 -
障害者雇用支援のエスプールと持続可能な農業モデル構築へ概念実証を開始 食べチョク2025年12月22日 -
滋賀県日野町と農業連携協定 生産地と消費地の新たな連携創出へ 大阪府泉大津市2025年12月22日


































