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【森島 賢・正義派の農政論】米中体制間抗争のもう1つの争点2019年6月19日

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【森島 賢】

 中国の習近平主席が、「次世代通信(5G)技術など…最新の研究成果を各国と分かち合いたい」と発言した。7日にサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムでの発言である。
 これは、米中間の体制間抗争の中心点にかかわる重大な発言である。しかし、ほとんどのマスコミは、大きく取り上げなかった。
 両国の体制間抗争の争点の1つは、企業に対して国家資金を投入する問題である。もう1つが、この知的財産権をめぐる問題である。これが2大争点である。
 習主席の発言は、この2大争点のうちの知財権について、中国の基本的な考えを表明したものである。つまり、研究成果などの知財権は社会全体・世界全体のもので、私的な所有を認めない、とする考えである。つまり、新技術を、中国は世界に公開するが、他国も世界に公開せよ、という主張である。
 これは、主要な生産手段の私有を認めない社会主義体制の中国にとって、決して譲れない点だろう。
 やや詳しくみてみよう。

 米国のトランプ大統領の主張は、こうである。
 中国は、米国の私企業や私人の研究成果である新しい技術を不当に使っている、と主張している。使ってもいいが、そのときは正当な対価で買い取るか、正当な使用料を払うべきだという。
 不当というだけでなく、ドロボー呼ばわりさえしている。

 

 

 ところで、技術とは、そもそも生産手段と結びついて、その一部になっているものである。これを私的に所有して、労働者を搾取する手段にするのが資本主義である。私的に所有しているのだから、他の人が使うなら、その使用料を払わねばならない。トランプの主張は、この考えに基づいている。
 これは、私利私欲の追及に最高の価値をおく資本主義の考えである。

 

 

 これに対して習は、この考えに真っ向から反対する。
 中国は社会主義の国だからである。社会主義は主要な生産手段を私的に所有して、労働者を搾取する手段にすることを否定するからである。つまり、生産手段は社会全体が所有すべきものと考えている。そうして、生産手段は、誰もが無償で自由に使え、最新の研究成果である新技術をみんなが享受できる。
 だから、冒頭の発言になる。つまり、最新の研究成果としての新技術は、各国で共に分かち合おう、という発言になる。

 

 

 トランプと習の、この相反する主張の基礎に何があるか。
 トランプは、技術を私有制にし、使う人から使用料をもらう、それが私的な利益になるから、それが刺激になって、さらに技術が進歩するのだという。私利私欲の追及による技術の進歩への期待である。
 これに対して、習は、搾取の否定に加えて、技術の非公開による技術の停滞を指摘する。技術を公有にして無償で公開すれば、だれでも自由に使えるようになり、みんなの創意工夫で、技術はさらに進歩する、という考えである。

 

 

 以上のように、この問題は、資本主義か社会主義か、という国家体制に関わる問題である。だから、体制間抗争といわれている。それほど根深い問題である。
 だから、ともに妥協の余地はないのか。そうではない。相手に圧力、まして武力を使って、相手を屈服させるしかないのか。そうではない。他国に干渉してはならぬ。
 両国とも、相手国の体制を尊重しあいながら、自国の国民の意思に従って、体制に欠点があれば国民の手で是正するしかない。
 そうして歴史は、生産力が高い方の体制の存続を許すだろう。

 

 

 ちなみに、農業での知財権は、きわめて緩やかである。
 たとえば、隣の農家が新しく発見した施肥技術を、無償で真似しても、非難する人は農村にはいない。そうして互いに感謝しあい、尊敬しあい、学びあいながら、ともに技術を磨き、みんなで生産力を高めている。
 農協は、その結節点になっている。
(2019.06.19)

(前回 立憲党消滅の危機

(前々回 最低賃金法の棚ざらし

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