【JCA週報】松岡公明「民度を超える国家はない」2019年7月1日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、2009年冬号の巻頭オピニオン「民度を超える国家はない」です。
JCAの協同組合研究誌「にじ」は当時JCAの前身である協同組合経営研究所で発行していました。本稿は常務理事に着任したばかりの松岡公明氏が書いたものです。
協同組合研究誌「にじ」2009年冬号「民度を超える国家はない」
協同組合経営研究所 常務理事 松岡 公明
金融危機から世界的な景気悪化のなか、雇用・失業問題、格差・貧困問題が顕在化。失業者数363万人、自殺者数も3万人超。新聞に載ったデータや「100年に一度の危機」というフレーズだけではすまされない現場実態がある。
これらの問題、考えるに「ブラックボックス」があまりに多い。塩野七生氏が紹介したカエサルの「自分の見たいものしか見えない」という人間本性の問題もあろう。刹那、刹那の移り気な社会ムードの問題もある。ダメダメ症候群のマスコミの増幅も手伝って、政治も経済も社会も、問題の解決へなかなか収斂していかない。大きな政府か小さな政府かというような極論と極論のぶつかり合いと二分法的思考の限界も見えてきた。
そして、世の中、自分の立場や経営さえよければいいという「タコツボ化」現象が蔓延している。いろんな犯罪事件にしても「わがまま」が横行。激安合戦のなかで、100円もしない食料品が並んでいるが、「こんな値段で生産者は再生産できるのだろうか」というまともな想像力さえ働かなくなっている。人間の尊厳も、労働の価値も、「孤立」「対立」「競争」のなかで埋没している。人の痛みや社会不安のリスクが共有化されていない。
病気の治療と同様、問題の「発生主義」では痛みもコストも大き過ぎる。「無関心は罪悪である」(マザー・テレサ)。ブラックボックスとタコツボをぶち壊して、「見える化」「気づく化」「考える化」「リスクの共有化」を推し進めていかないと暮らしも地域社会も取り返しのつかないことになる。社会的にも、予防医学的なリスクマネジメントを採り入れるべきだろう。「新たな協同の創造」すなわち協同の発見と協同の場づくりを通じて、協同組合がそうした役割を担えるのかどうか。
「民度を超える国家はない」。今日の危機的状況のなかで、協同組合セクターへの期待が高まっているが、協同組合陣営の「民度」も競争激化のなかで相当揺らいでいる。協同組合としての自覚と現場主義、環境変化に対応したイノベーション。学習活動による組合員・職員教育と徹底した地域密着型の実践で陣営の「民度」を高め、協同組合としての本質や価値を深めることが地域社会の「民度」の向上、健康な地域づくりを促すという好循環をつくりたい。
協同組合研究誌「にじ」 2009冬号より
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