【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】農業保護大国カナダ2019年7月11日
カナダは、穀物を中心に農産物の大輸出国で、農産物関税も低いと思い込んでいる人が多いと思うが、衝撃のデータが表1に示されている。WTO(世界貿易機関)によると、単純平均で16%というカナダの農産物関税率は、日本の13%、EUの11%よりも高い。しかも、カナダが徹底的に守る姿勢を崩さない酪農については、平均関税が250%という突出した水準になっている。
ニュージーランド(NZ)とオーストラリア(豪州)以外は、乳製品の関税は世界的にも総じて高い。なぜだろうか。まず、世界の酪農の競争力については、NZと豪州の競争力が突出しており、米国、カナダ、欧州、日本などは、全面的な関税撤廃をしたら、国内の酪農がもたない、という構造がある。
そして、米国でも「公益事業」(電気やガスと同じく必要量が必要なときに供給できないと子供が育てられないので海外に依存できない)と言われるくらい、特に、欧米諸国にとって牛乳・乳製品は最も重要な基礎食料である。だから、その国産の牛乳・乳製品を守るためには、NZと豪州に対して全面的貿易自由化はとてもできないという事情がある。
だから、NZと豪州以外の国は、ガットのウルグアイ・ラウンド(UR)合意以前は乳製品の輸入数量制限をしていた。UR合意で、数量制限はやめて「関税化」したけれども、低関税の輸入枠と禁止的二次税率を設定した。そのため、いまでも、各国の乳製品の平均関税も高く、最高税率はNZと豪州のほとんどの国で100%を超えている。農産物全体の平均よりも乳製品の関税が総じて高いことからも乳製品の特別な位置づけがわかる。
「関税化」と併せて、輸入量が消費量の3%に達していない国(カナダも米国もEUも)は、消費量の3%をミニマム・アクセスとして設定して、それを5%まで増やす約束をしたが、実際には、せいぜい2%程度しか輸入されていない。ミニマム・アクセスは日本が言うような「最低輸入義務」でなく、アクセス機会を開いておくことであり、需要がなければ入れなくてもよいのである。欧米諸国にとって、乳製品は外国に依存してはいけないのだから、無理して、それを満たす国はない。かたや、日本は、すでに消費量の3%をはるかに超える輸入があったので、その輸入量を1万3700トン(生乳換算)のカレント・アクセスとして設定して、毎年、忠実に満たし続けている、唯一の「超優等生」である。
カナダの牛乳は1リットル300円で、日本より大幅に高いが、消費者はそれに不満を持っていない。筆者の研究室の学生のアンケート調査に、カナダの消費者から「米国産の遺伝子組み換え成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられた。生・処・販のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、消費者もハッピーなら、高くても、このほうが皆が幸せな持続的なシステムではないか。「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」が実現されている。
カナダがこのようなシステムを維持するには、海外からの安い牛乳・乳製品を遮断する必要があるため、TPPで断固たる対応が必要になり、カナダはそれを押し通した。カナダはTPP参加国に対する無税の輸入枠(TRQ)を少しだけ新設したが、それを超える輸入に対する高関税には手を付けずに維持することに成功した。カナダとEUとのFTA(自由貿易協定)でも同じ、新たなNAFTA(北米自由貿易協定)交渉でも同じように、実質的には、ビタ一文譲らなかった。
また、カナダ政府が20年も前からよく主張している理屈でなるほどなと思ったことがある。それは、直接支払いというのは生産者のための補助金ではなく、消費者補助金なのだというのだ。なぜかというと、農産物が製造業のようにコスト見合いで価格を決めると、人の命にかかわる必需財が高くて買えない人が出るのは避けなくてはならないから、それなりに安く提供するために補助金が必要になる。だから、これは消費者の皆さんを助けるための補助金を生産者の皆さんに払っているだけだから、消費者はちゃんと理解して払わなければいけないのだという論理である。こういうふうな側面も考えると、生産サイドと消費サイドが支え合っているという構図が別の側面からも見えてくる。カナダは立派だ。見習うべき点が多い。
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