【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(140)「誰が」中国に大豆を輸入しているのか?2019年7月19日
2019/20年度、世界の油糧種子の生産量は5億8604万tと見込まれているが、その中で大豆は3億4704万t(59%)を占めている。油糧種子の中で第2位は菜種(7178万t、12%、数値は生産量・シェア、以下同じ)、第3位はヒマワリ種子(5051万t、9%)と、上位3品目で8割を占めている。
大豆に注目すると、現在世界最大の生産国はブラジル(1億2300万t、35%)であり、米国(1億464万t、30%)と上位2か国で65%を占める。第3位はアルゼンチン(5300万t、15%)でブラジルの半分以下だが、それでも第4位の中国(1700万t、5%)を大きく引き離している。
国際貿易の観点から見ると、大豆の年間輸出数量は1億5126万tだが、内訳はブラジル(7600万t、50%)が世界の輸出の半分を占め、米国(5103万t、34%)、アルゼンチン(800万t、5%)と、上位3か国で約9割、中でもブラジルと米国の独壇場である。
これをどこが輸入しているかと言えば、6割を中国(8700万t、58%、世界の輸入総数量は1億5082万tと、統計上、必ずしも輸出総数量と完全一致はしない)が占め、第2位のEU(1510万t、10%)を大きく引き離している。
大豆は元々、中国が原産と言われており、中国自体も世界第4位の生産国とはいうものの、現在ではブラジルと米国の大豆が世界の生産量の約3分の2を占め、貿易数量の6割を中国が輸入する構図になっている...と、ここまでは比較的良く知られている。前述のとおり、今年の輸入数量は8700万tと見込まれているが、一昨年には9410万tを記録しており、米中貿易戦争やアフリカ豚コレラの影響がなければ中国の大豆輸入数量が年間1億tに到達するのも時間の問題だと見られていた。
では、この膨大の量の大豆は中国の「誰が」輸入しているのか?
年間8700万tは単純に12で割れば1か月に715万tである。嫌な言い方かもしれないが、平成30年の日本のコメの年間生産量が778万tと考えると、日本のコメの年間生産量とほぼ等しい量の大豆を毎月中国は輸入していることになる。こう考えると、その規模が想像しやすいのではないだろうか。
2015-17年の数字をまとめた米国農務省の資料によると、中国の大豆輸入の31%は国営企業、27%が多国籍企業、その他の中国企業が40%、そして企業名が明らかになっていないものが2%であるという。
最も数量が多いのはCOFCOとWilmerであり、この2社は搾油面でも上位2社である。COFCO Group、すなわち中糧集団有限公司は国営の企業グループであり、米国のFortune Global 500で見ると、売上高は697億ドル(6兆9700億円、1ドル=100円で換算)、従業員12.4万人を超え、傘下には中国最大の食品企業である中国食品などを含む巨大組織である。このランキングでは三菱商事が129位、丸紅が130位と言えば、概ね規模がわかると思う。WilmerはWilmer Internationalのことであり、シンガポールに本拠を持つ、これも巨大企業である。Global 500のランキングでは売上高438億ドルで248位だが、中国国内での大豆搾油量はCOFCOよりも多いようだ。
大豆輸入数量に話を戻すと、こちらはCOFCOが最大である。また、関係業界以外には余り知られていないがSinograinという企業がある。Sino-はもちろん「中国の」という意味であり、こちらは中国最大の穀物備蓄企業である。Sinograinは中国儲備糧管理総公司というが、そのグループの中に中儲糧油脂有限公司という企業があり、ここは日本の総合商社では丸紅との関係が深い。米中貿易戦争の渦中の昨年には、米国産大豆の輸入に対するCOFCOとSinograin両社の動きが注目を集めていたため業界では両者の動向に関心が寄せられていた。
いずれにせよ、米国農務省の数字のとおりであれば、中国の大豆輸入は国営企業31%とその他中国企業40%を合わせた71%が中国系企業により行われ、穀物貿易の世界で有名な多国籍企業によるものは27%程度というのが一応の概要であるようだ。このうち、後者の「その他中国企業」の中に外資との合弁企業がどの程度あるかは、よくわからない。
また、これらはあくまでも最終的な「輸入業者」の割合である以上、「輸入業者」に届く前に、商流がどこをどう経由しているのかは部外者からは伺いしれないのが、国際貿易の世界である。穀物に限らず、いかなる取引においても物流と商流は必ずしも一致する必要はないからである。
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