【澁澤栄・精密農業とは】ちょっとずれてないか、水田スマート農業、百年の経験を科学に2019年7月23日
現在の状態は、テクノロジーが豊富で、応用が貧困だ。
日本では、過去20年間の技術開発の結果、農作業体系に利用可能な多くの精密農業技術が形を現した。これらをそのまま普及することが精密農業(スマート農業)であるという錯覚が目立つが、これは間違いだ。農家をパートナーにした現場からの農場マネジメント革新の取り組みが精密農業の本丸なのである。
【水稲作への精密農業導入の考え方】
水稲あるいは水田は、その名の通り、貯水池や河川から個々の水田まで水を運ぶ水耕栽培の体系であり、水の集配水管理の地域システム技術である。ダムや貯水池の貯水量と個々の水田需要の両極をにらみながらの配水、その間を接続する基幹通水や支川配水が主な管理対象になる。これらは時間的にも空間的にも無視できないばらつきがあり、さらに気候・気象による降水量変動も加わる。ばらつきを記録し、変動リスクを見積もり、水の集配水管理を効率化することが精密農業の絶好の対象だ。
ばらつきの管理では、過剰な施設機能や灌漑水量の見直しが対象になる。すでに最高時の30%の水田が他用途に利用されている現在では、正確な水利用(需要)マップにもとづく統合的な水利用の仕組みが俎上に載るであろう。個々の水田では、倒伏防止(減収防止)のための株管理が期待される。
課題は、高度に組織化された水田管理網が、大量離農と農村コミュニティの脆弱化により崩壊の危機に直面していること。にもかかわらず、事態の俯瞰的な記録や情報共有、および管理網の再編など事業の担い手が誰であるのか、明瞭でないことである。
農家が核になる実効的な当事者(組織)が登場する時期だ。地元の建設業者や福祉団体と協力して農業の担い手を再編するのも重要なことである。
精密農業は、数百年にわたって蓄積され改善されてきた農法の原点回帰を要求する。
例えばインドネシアのバリ島では、水神を小山の頂上に祭り、およそ100haを10区画程度に分け、それぞれの区画をひとつの家族が担当し、分水器スバックを共同管理する。長男不在の場合、別の家族が担当し、耕作放棄が出ない仕組みをもつ。ここに精密農業を導入している。結果だけ述べると、畜力・疎植・施肥と農薬の削減・収量増を実現している。
【田植機の変身】
田植作業と土壌肥沃度測定と可変施肥を一つの作業で同時に実現する田植え機が井関農機から市販され、国内外で急速に普及しつつある。図2は研究開発中のほ場試験の様子だ。
田植え機の車輪沈下で耕盤までの作土深さを推定し、電気抵抗による土壌電気伝導度ECを測定するという、水田ならではの計測システムを搭載している。
ECの値に対応して、側条施肥量を加減し、施肥削減を実行する。通常の田植え作業をしながらの施肥作業なので、作業に慣れたら、コスト低減のみならず軽労化と環境負荷軽減が同時に実現する。
日本の稲作では、多肥多収の技術体系が定着しており、減肥は収量低下につながるとの先入観が根強い。環境負荷の軽減をめざす施肥削減は至難の業であった。しかし、土壌肥沃度を測定し、根拠データに基づいて収量低下の心配がなく減肥作業を実行することは、日本稲作の革命的な転換を引き起こすことになるだろう。
日本における化学肥料の投入量を欧州並みに半減することは国際的責務であり、収量安定・施肥削減の技術は注目を集めている。
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