【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】ノリ養殖業界に迫る危機2019年7月25日
・国産ノリ80億枚VS韓中枠43億枚(2025)の衝撃
日本のノリ輸入先は韓国と中国に限定されている。ノリには資源管理の観点からIQ(輸入数量割当)が残されているので、IQ制度を前提にして、可能な輸入アクセス改善策を議論するのが現実的な選択肢であった。
筆者は2002~2003年にかけて、計8回の日韓FTAの事前交渉(産官学共同研究会)に参加したが、農林水産物で一番こじれたのはノリ問題だった。韓国側は、「日本の交渉官の皆さんも帰国時には韓国ノリをお土産に買っていくんでしょう。もつと日本国内でもたくさん買えるようにしたほうがいいですよね」という感じで、韓国産の味付けノリの日本での人気は大きいことを強調し、いきなり枠の廃止は求めないとしつつ、より大胆な枠の拡大を要望してきていた。
日本も毎年着実に枠拡大を行う形で努力していたが、韓国の味付けノリに対する日本の消費者の評価も高く、消費者にも訴えやすい事案だけに象徴的な問題にならないように調整が必要だと、筆者もかねてより指摘してきた。
残念ながら日本が従来韓国のみに提供していたノリの輸入枠を中国にも開放した(2005年の上限を相手国を問わず4億枚とした)ため、日本のIQそのものがWTO違反として韓国がWTOに提訴するという事態に発展した。養殖ノリは魚類と違って資源管理の必要性が弱いという側面があるので、WTOのパネル裁定で日本のIQが否定される可能性も視野に入った。
しかし、韓国にとってもIQがなくなり中国との競争にさらされるよりは韓国枠を維持できた方が実は得策なため、IQ枠の拡大で解決できる余地は残っていた。当初、日本側の提示水準と韓国側の要求水準の開きは大きかったが、2006年1月20日、2015年までに韓国枠を06年に設定した3.4億枚から12億枚まで増やすことで合意した。
さらに、2015年12月9日、韓国から輸入するノリの数量の上限を2025年に27億枚に増やすと約束した。2015年の12億枚から、16年から年1.5億枚ずつ増やしている。かつ、韓国枠の60%を中国枠として付与することになっているので、2019年現在で、韓国18億枚+中国11億枚=29億枚の輸入枠、国産ノリの生産規模は約80億枚なので、36%に達している。これが、2025年には、27億枚+16億枚=43億枚、国産に対する比率が54%という衝撃的な割合に達する。
かつ、TPP11で、ノリの関税は15%引き下げられた。1.5円/枚または40%が、1.28円または34%に、ノリ調整品については、25~28%が21.2~23.8%になった(注)。日韓FTAや、韓国と中国を含む日中韓FTA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携、日中韓+ASEAN10+豪NZ印)は簡単には妥結しないだろうが、韓国は、TPP11への加盟を検討しており、それが実現すると価格もさらに下落する。
韓中枠43億枚というのは異常である。韓国はノリ輸出増加に国を挙げて取り組み始めており、TPP11への参加によって価格もさらに下がる可能性も考慮すると、現状では安全性や品質で日本国産が優位であっても、どう考えても枠が大きすぎであり、本来なら、枠の見直しが必要である。
そして、国産ノリの安全性と品質に基づいた消費者との信頼関係をさらに強固に構築することが急務になっている。また、韓国の輸出振興を目的としたノリの乾燥機などへの国の補助は、WTOに違反する輸出補助金に相当するので、その点の監視も必要である。
(注) TPP11で多くが関税撤廃~世界的にも低い農産物関税のさらに半分以下の水産物関税
農産物の平均関税も11.7%でEUの半分程度(OECDデータ)だが、すでに、水産物の平均関税率は、その農産物の半分以下の4.1%まで引き下げられており、海外からの輸入の増大による魚価低迷の影響を大きく受けてきている。現状の主要品目の現在の関税率は以下のとおりで、TPP11(米国抜きのTPP)では、ノリ、こんぶ、わかめ・ひじきは即時15%削減で、その他は、即時または段階的関税撤廃とされ、日本の水産物市場への多大な影響が懸念される。
品目 関税率
▽あじ 10% →撤廃さば 7~10% →撤廃
▽まいわし 10% →撤廃ほたてがい 10% →撤廃
▽まだら 6~10% →撤廃いか 3.5~5% →撤廃かつお・まぐろ 3.5% →撤廃
▽さけ・ます 3.5% →撤廃
▽こんぶ 15% (→即時12.7%)
▽こんぶ調製品 25%(→即時21.27%)
▽ノリ 1.5円/枚、または40% (→即時1.28円、または34%)
▽ノリ調整品 25~28%(→即時21.2~23.8%)
▽わかめ 10.5% (→即時8.9%)
▽ひじき 10.5% (→即時8.9%)
▽うなぎ 3.5% →撤廃
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