【澁澤栄・精密農業とは】環境保全と収益向上を同時にかなえる2019年8月6日
近代農業が環境と生態系の破壊者になったことを描いた、レイチョル・カーソンの小説「沈黙の春」に啓発され、「有機」農法や「無農薬」農法の運動が世界中で広まった。しかし、これらは技術として洗練されておらず、販売農家は困ってしまった。そこに登場したのが、環境保全と収益向上を同時に狙うことができる精密農業だ。
◆「作物の言葉」を理解する
寓話作家アンデルセンを生んだデンマーク・オーデンス島の農場主ランゲ・キルデの経験を紹介しよう。
1991年、ファーガソン社のGPS・収量メータ付きコンバインが世界で初めてデンマークに導入された。ランゲ・キルデは、95年にそのコンバインを導入してほ場350haの収量マップを作成した。経営ほ場は、1775年では22区画、1875年には5つの区画に統合、1975年には一つに統合された歴史をもつ。
1999年にデンマークのオーデンス島で開催された第2回精密農業ヨーロッパ会議で、ランゲ・ギルデは次のように語った。
「ほ場マップを基礎にして異なるレベルの管理領域に分割すると200~2000の管理単位が構成できる。かつ、投入量の自動制御による場所ごとの適正値に合わせた可変作業を実行することにより、350haの全体を一つのほ場として管理することができる」
そして、このような作物状態に応じた適正値による農作業を経験して、「精密農業とは作物の言葉を理解することである(understand the language of plants)」と、感想を述べた。
また、ISO14001の認証も受け、環境保全と収益向上およびリスク管理をめざす営農を実行していた。
近年では作物のほ場計測法が発達し、遺伝的特性の表現型をほ場現場で見分けることが課題になっている。このような技術をフェノタイピング(Phenotyping)と呼び、「作物の言葉を理解する」技術が発達しつつある。
◆環境負荷マップをつくる
土壌マップと収量マップを用いると、仮想の環境負荷マップという新しいほ場情報を創造することができる。
図1は、2005年から2006年にかけての群馬県農業研究センターの小麦ほ場における試験結果。小麦の播種前と収穫後に土壌センサSAS1000を走らせ、複数の土壌成分マップを得た。また、収量メータ付きコンバインにより、籾質量、水分、タンパク含量などの詳細な収量マップを得た。
全窒素に着目し、入力として施肥量と播種前土壌窒素、出力として作物吸収窒素と収穫後の土壌残留窒素を計算した。
作物吸収窒素は、麦株サンプルの分解調査により、籾質量と作物体窒素の関係を推定した。ほ場内の10mグリッドごとに観測値数十点の平均値と分散を求め、図のようにグリッドマップで表現した。
入力と出力の差がほ場から環境中に流亡した窒素になる。注目すべきは、施肥量より多くの流亡窒素が得られたグリッド。計算上は施肥がすべて流亡したことになり、環境負荷の危険性が高くなる。
実際、図中の赤く示したグリッドでは、作物が枯死してしまったか、あるいは倒伏して収量が極端に低い場所であった。
この試験では、収量マップ、タンパク含量マップ、環境負荷マップおよび土壌全窒素マップを用いて、適正な土壌窒素のレベルを推定した。
限られたデータの範囲だが、収量増には土壌窒素が高い方がよく、タンパク含量向上(高品質化)には土壌窒素が低い方がよい。また、環境負荷減少には土壌窒素が低い方がよかった。
したがって、トレードオフ問題に対するバランス解を求めることが、処方箋の作成作業となる。農家と産地の意思を抜きにしては、処方箋が定まらないことになる。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米多収日本一 山口県のあぐりてらす阿知須 10a当たり863kg2025年3月3日
-
【特殊報】ナシ胴枯細菌病 県内で初めて発生を確認 島根県2025年3月3日
-
政府備蓄米売り渡し 入札 3月10日に実施 農水省2025年3月3日
-
新潟県の25年産米概算金「コシ2.3万円」 早期提示に歓迎の声 集荷競争、今年も激化か2025年3月3日
-
米の集荷数量 前年比23万t減に拡大 農水省2025年3月3日
-
米価高騰問題への視座【森島 賢・正義派の農政論】2025年3月3日
-
【次期家畜改良目標】低コスト、スマート農業重視 酪農は長命連産、肉牛は短期肥育2025年3月3日
-
【改正畜安法の現状と課題】需給対策拡大が焦点 問われる「国主導」2025年3月3日
-
あなたたちは強い〝武器〟を持っている JA全国青年大会での「青年の主張」「青年組織活動実績発表」講評 審査委員長・小松泰信さん2025年3月3日
-
JA農業経営コンサルタント 15人を認証 全中2025年3月3日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年3月3日
-
農業用バイオスティミュラント「エンビタ」とは 水稲育苗期にも効果 北興化学工業2025年3月3日
-
アミューズメント施設運営「ティスコ」株式を譲受 農林中金キャピタル2025年3月3日
-
「2025ローズポークおいしさまるごとキャンペーン」でプレゼント 茨城県銘柄豚振興会2025年3月3日
-
福岡ソフトバンクホークスとのオフィシャルスポンサー契約更新 デンカ2025年3月3日
-
ファーマーズ&キッズフェスタ2025 好天で多数の参加者 井関農機は農業機械体験2025年3月3日
-
【今川直人・農協の核心】産地化で役割が高まる農協の野菜取り扱い2025年3月3日
-
野菜がたっぷり食べられるカレー味「ケンミンカレー焼ビーフン」新発売2025年3月3日
-
第164回勉強会『海外市場での植物工場・施設園芸の展開』開催 植物工場研究会2025年3月3日
-
春の山梨の食材の魅力を伝えるマルシェ 5日から国分寺マルイで開催 雨風太陽2025年3月3日