【坂本進一郎・ムラの角から】第18回 大潟村にムラを発見するまで(3) 2019年8月7日
(1)コミュニテイ型社会とムラ型社会の分かれ道
大潟村は個々に独立した、あるいは自立した自営小企業の農民が集まってきた。だから最初アメリカのようにコミュニテイ社会ができた。それぞれ夢を語った。個人個人が輝いて見えた。しかしそのうち夢を語らくなった。そして1978年(昭和53年)には青刈り騒動を契機に3人の自殺者がでた。自殺者が出たときの村の雰囲気は作付け制限で頭を押さえられ出口をふさがれたということもあったが、それだけでなく、いやそれ以上に、それまで皆で気持ちを一つにして,村(ムラでなく村)を作っていくという気持ちが崩れたからであった。
自殺者が出るということは、その社会に矛盾や欠陥があるので、構成員のうち最も敏感で弱い部分の人が自殺する。なんだか悪貨は良貨を駆逐するように思えた。実はこの年私は田植えの時期に経験したことだが、ムラができていたのだ。三人の自殺者は死をもってムラ誕生を告知したのである。否、彼らはムラの強さに弾き飛ばされたのかもしれない。そしてこの事件はコミュニテイ型社会と決別する合図でもあった。
今はそう言える。しかし当時は何かがおかしいと思うだけであった。そう思って数年たって1985年(昭和60年)知事来村による知事と入植者とのやり取りを通して、入植者の『甘え』を見て取った。この時、過剰作付け者は73人にも上った。過剰作付け者の言い分は「国と俺らは違う」ということだった。それ故ヤミ米をやりながら、俺らには責任がないという身勝手であった。農政をどうするのかという個人の主体、責任をはっきりさせるのでなく、米を余計作りたい。しかし、それを一人ではできないから徒党を組んでやりたい。そのことが知事と会場のやり取りで顕わになった。「俺らと国が違う」というとき、俺らと国を結びつけるのは、『甘え』であり『温情』であった。皆もたれあっている。話し方まで駄々っ子だ。私は『青刈り騒動』と『ヤミ米騒動』の違いを見て取った。青刈り騒動は少なくとも個人個人が闘争の主体であったが、ヤミ米騒動は集団が闘争の主体であった。
この時私は、「私はムラができたな」とハッと思い当たった。この時、再度新天地に足を踏み入れた気持ちにさえなった。そこでカルチュア―ショックが起こり、猛烈にノートを取り出した。ノートは三冊になった。そしてできた本が『米盗り物語』である。「米盗り」という意味は盗り分を余計にしたいが、一人では不可能なので集団の中に潜り込み、本能優先を達成したいということである。
風景も変わった。
三角屋根―→平屋の豪邸へ
夢―→現実
個人主体―→集団主体
(2)ムラの生態
世間の建前には一応従うが、ムラの中では本音を貫く二重性格が行われているとすれば、その二重性格ぶりはヤミ米によって示されている。『気違い部落周游紀行』を書いたきだみのるは気違いというどぎつい言葉を使ったが、この言葉の意味は本音、あるいは必要悪ぐらいに受け取れる。カッコつきの「闇」米のうちは本音と建前がバランスしていることを示すが、「白昼公然米」になるとムラが倒錯したことを示す。これでは本当のきちがいだからだ。
二重人格になるのは、日本人の多くは建前を自分で作るより、寄らば大樹の陰とばかり長いもの(アメリカ)の建前に合わせようとするので、ムラ内ではその本音を最大限発揮しようとするからであろう。この点「減反下」での大潟村の「ヤミ米蔓延」はそのことをみごとに示したといえないか。ムラの仕掛けの中に15haからくる「強者の論理」を紛れ込ませ、本音丸出しを貫いた結果「食管制度」など「糞食らえ」という地点まで来てしまったのでないか。
だがそのことは「建前」と「本音」の関係に敏感な既存農村や日本人の気持ちを逆なでし、多くの人のひんしゅくをかい、秋田県農業委員会大会では「過剰作付け自粛の要請」まで出されるに到った。既存農村で建前(減反)に従っているのは、減反に反抗したりヤミ米をやったりしないような群れの仕掛けが作られているからである。ムラの足並みを乱しては、乱だした当人はムラから罰を受けムラでの生活がなりたたなくなるからでもある。
(3)ムラの功罪
ムラという壁が厚い時、3人の自殺者を生み出し、私自身12.5haを強要され民主主義が損なわれる。一方10haを認めるからその代わり73人の是正金を出せと国から突き付けられたとき、残った入植者と役場がお金を出しあって、事なきを得た。ムラというのはなんたって居心地がいいのである。
次はムラ人の会話である。
(ヤミ米派)「お前のところのコメ収入はいくらか」
(順守派)「2000万円だ」
(ヤミ米派)「そうか、ちったーすくねえな」「なんたってなあ、日本に食管があるうちはヤミ米をやったほうが得に決まっているさ」「我々は食管潰しという財界戦略の別動隊でピエロの役を勝手に演じているだけなのさ」「ヤミ米は金鵄(きんし)勲章みたいなものよ」
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