【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(143)ボン・ホリデー2019年8月9日
世の中、お盆休みである。昨年のコラムではお盆の蘊蓄を少し記したが、今年はお盆の自分の動きを書いてみたい。筆者は結婚以来30年間、海外在住の時と福岡に勤務していた時を除き、毎年「盆暮れ」には家族でお互いの実家を訪問し続けてきた。当たり前と言えば当たり前だが、最近はこれが意外に珍しいようで驚かれることがある。
東京都下の住宅街にある自分の実家では、今年の始めに卒寿を迎えた実母が数年前まで、ナスとキュウリに割りばしを指し、いわゆる精霊馬・精霊牛を作り並べて置き、庭先で送り迎えをしていた。最近は庭で火を焚くのも厳しいので本当に形だけにしている。
筆者がまだ子供の頃、母のそうした行動を見て由来を尋ねたところ、ご先祖様をお迎えするための乗り物であり、早くお迎えするための馬、そしてゆっくりと沢山のお土産を持って帰って頂くための牛、と聞いた記憶がある。
ならば、お迎えはキュウリの精霊馬だけ、そして、お送りはナスの精霊牛だけの方が良いではないかと尋ねたところ、「お前は合理的だねえ...」と笑われたのも今は昔である。
精霊馬も精霊牛も筆者自身はほとんど自分では作ったことがない。頼まれて1~2度くらいか。後は母がいつも1人で準備していた。筆者の子供達が本当に小さい頃何度か手伝ったことがあったかどうか、記憶は定かではない。
子供達も成人した今では「ばーちゃんはもはや異世界に生きている」と思っているのかもしれない。両親の出身である長野のお盆は数年前に初めて経験した。山間の小さな川沿いの集落でのお盆、特に夕方の迎え火の風景は東京育ちの筆者には今でも印象に残っている。
バタバタと筆者の実家を訪問した後は、概ねお送りに間に合うように義実家に移動する。こちらはこちらで典型的な「日本のお盆」を経験できる。筆者達が行く頃には既にご先祖様のお迎えは済んでおり、挨拶をするだけになっている。毎年の訪問の順番が「実家~義実家」のため、どちらかというとご先祖様の送りを子供達に手伝ってもらうことが多い。最後は、提灯の中の火を消さないようにして、しっかりとお帰り頂く。ここ数年は義母と子供達がその役割を担っている。
義実家は農家ではないが周囲は農村地帯であり、少し歩けば360度水田に囲まれるような風景を見ることができる。そして、精霊馬・精霊牛だけでなく、様々なお供物を含め、東京の住宅街では余り見られなくなったお盆の時期特有の近隣の雰囲気がまだ義実家の近くには至る所に溢れている。不思議なもので毎年経験していると、いつのまにかこれを過ぎないと夏が峠を越えた気がしなくなっている。
東京に出ている東北人もお盆に合わせて夏休みを取得し帰省する人が多い。そういえば古巣の職場では大昔、常に眉間にしわを寄せていたある上司がお盆で東北に帰省した後の数日は眉間のしわが無くなり毒気が抜けたような表情をしていたこともあった。わずかな期間であってもストレスから解放されたのかもしれない。
今年はお盆に入る前の11日に北東北某所で結婚披露宴の予定がある。うっかりして新幹線の予約を忘れていたところ、8月頭の時点で仙台発の朝07:00以降、午前中の指定席・グリーン・グランクラス、全てが売り切れていた。東北に10年以上いながらまだ甘かったと痛感し、ようやく取れたのが早朝06:40仙台発の指定席である。忙中閑あり。午後の披露宴まで北東北の夏を2~3時間、楽しめるかもしれない。
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