【坂本進一郎・ムラの角から】第19回 大潟村にムラを発見するまで(4) 2019年8月21日
◆覚悟
ある第二次入植者(昭和44年=1969年入植)は入植した頃のことを次のように語った。
「入植した当時はそれまで30万円~50万円の所得の生活しか知らなかったし、もちろん車などの生活は知らなかったから、まさかここで一戸で2台の車が必要になるとは思っていなかった。それが入植後半年もしないうちに、田んぼに通うのに必需品ということもあったが、たいていの人はここで免許を取った。万事がそういう調子で、入植者はここにきてから気持ちが大きくなり、借金もあまり苦にならなくなってきた」
別の入植者はこうも言った。
「入植した当時、これからの生活が海のものとも山のものともわからなかったから、田んぼに通うのにバイクで通うぞというくらいに引き締まった気持でいたが、実際にふたを開けてみると、収入はそれまでの生活とは一桁違いで、この金額を手にしたとき、前途洋々だと将来がパッといっぺんに明るくなって見えたものだ。そんな生活を続けているうちに、既存農村のちまちました生活には今や戻る気がしなくなった」
さらに欲望肥大を決定的にしたのは、先述のように5ha増反であった。5ha増反は大潟村に特異な収支構造を生んだが、入植者にヤミ米への誘惑を根強くよく支えたのは、政府の指示を守るよりも禁を犯してでも全面積に稲を作れば、1000万円も収入が増えるということからであった。その禁断の木の実を食べ始めたことで、欲望肥大に拍車がかけられることになったのである。
次の話はこのような入植者の意識を裏づけるような話だ。すなわち、59年(1984年)の秋取材に来たある農民作家氏は、大潟村を見て歩いたあと、開口一番、「大潟村には御殿が多いですな」という感想をチクリと漏らした。
◆ムラの大雑把な特徴
県農政部は所管だけあって時々大潟村に足を延ばした.農政部次長がその任に当たった。かれはあるときこんなことを 言った。
「入植者は本音が大きすぎてその本音を建前でくくれない。しかも、建前がしっかりしてないところを見ると建前と本音のあまりの乖離の前に建前がぐらぐらしているように見えるし、二重人格のようにも見える」
この次長の発言は適切である。では入植者にはどういうモメントがあるのか拾い出だしてみよう。
イ、「現在」主義
明日は「こうあるべき」でなく、明日になっても「今日があるだけ」
方向性(政治性)に乏しい。融通無碍。経済主義というより、おまんまを食えさえすればいい。
(原因) 作物は植えさえすれば実りをもたらし、その結果生活が成り立つ。そんな「土と密着」した生活の中では、明日はどうあるべきかなどあれこれ思い悩む必要はない。
ロ、「足並み揃えて」
ムラ人の生活は「群れ」という「枠組」を前提に成り立つ。それはムラ人には「正直者が馬鹿を見てたまるか」や「赤信号みんなで渡ればこわくない」の気持ちが潜在しており、それを実現するときは「群れ」を作る。ムラ人の生活はその群れの一員として成り立つ。「部落的」というのはこの群れのことを指す。なぜなら俺の土地はムラの物であり、ムラの土地は俺のものであること。なんといってもご先祖様からの借りものなのだ。「群れ」的「枠組」から「足並み揃えて」の原理が生まれた
ハ、「甘え」
集団に帰属して生活することからくる「甘え「(寄りかかり)。
農水省との関係も「親と子」のような関係
ニ、二重人格
ウチのムラ、ムラ内の事情を優先させようとするため、世間にある建前を無視ないし、視野から外れ、ムラ内(本音)に走ってしまい、二重人格を顕在化させてしまう。ヤミ米はムラの本音の部分を大胆に表現していよう。外に向かってはつじつま合わせ、うちにあっては本音を貫く
ホ、「棲み分け」
棲み分け論は全編を通じて私が一番主張したい点である。「棲み分け」とは、政治は向こうの話で俺らはおまんまを食えさいすればいい――という考えである。どうしてこうなったか。
建前と本音を使いわけしようとすることから、「現在主義」に陥ってしまう。その点で、「足並み揃えて」の「群れ」作りは「現在主義」(その日暮らし)をするための便法だ。「群れ」は「人垣」になり、世間のルールを遮断して自分の手前勝手を行う手段ともなる。足並み揃えての行動原理が、原因とも結果ともなって、内と外を区別させ棲み分けを行わせていく。
◆ムラの仕掛けはあるか
大潟村には稲作研究会がたくさんあって、そう言う形で人間関係が作られている。共販会社もコメ販を中心にした人間関係を作っている。ムラというのは戸数増減なく永続してきた。その場合、保有面積が多くなったり少なくなったりしながら永続してきた。今入植戸数589戸に対し100戸離農した。これは競争型社会が混在しているせいなのか。ムラを一体化するには共済に加入することはどうか。
ムラは小国家のようだともいわれる。私が78年と85年に見たのはムラナショナリズムであった。財界は農業をつぶすのに、ムラ否定の農政を行ってきた。してやられたという感じがする。
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