【澁澤栄・精密農業とは】カーボンファーミングに着目 愛媛の農業法人が挑戦する無農薬・有機栽培2019年8月21日
2011年9月、オーストラリア議会で「カーボン・クレジット・ビル2011(カーボン・ファーミング・イニシアティブ)」の予算案が可決され、同年12月1日より施行となった。同法では、化学肥料の節約や新たな植生の拡大など農法改善や反芻動物からのメタン排出削減などに対して、債権(クレジット)を発行し、企業などの事業体の利潤動機を刺激するねらいがある。日本では愛媛県にある農業法人が、この動きに注目している。
◆土壌を大切にする水田農業
カーボンファーミングとは、地球温暖化ガスの排出抑制や土壌および植物への固定を安定的に行い、経済性(収益性)と社会性(人権保護)が担保された持続的農場管理。森林バイオマスの算定法は試みられているが、農場の炭素固定を定量的に評価する方法や技術体系は完成していない。多様な取り組みが国際的規模で進められており、精密農業は有力なアプローチとして期待されている。
この動きに注目し、道路舗装工事を主体する建設会社、愛亀の社長が2000年に設立したのがの農業法人「あぐり」(愛媛県松前町)だ。経営方針に「地域雇用の新しい担い手をめざし『人』『食』『農』を考えた脱農薬・脱化学肥料による資源循環型農業」を掲げている。その一方で、コメ作り名人のような熟練技術を社内に有しない替わりに、ほ場ごとの生産履歴を克明に記録して蓄積し、データに基づくほ場診断をめざす「田んぼの町医者」構想も掲げた。その決め手が、きめ細かな土壌分析の実施だった。
農業法人「あぐり」は2004年以来、リアルタイム土壌センサを活用した精密農業を導入し、3人の従業員で近隣農家から借用した水田約500枚、40haを管理している。近隣農家は高齢で、耕作依頼を申し出るが、将来のために所有は維持したいということで、水田合筆はなかなか難しい。
労働生産性からみると、数十軒分の農地を3人の従業員で管理しているため、経営体スケールでは10倍以上の生産性をあげていることになる。
新規導入技術は、土壌マップサービスのみ。化学資材の購入はなく、自家製堆肥を主体にして有機栽培をしている。病害虫が発生した場合は、対象水田の耕作を早期に中断する。小さな水田なので、何枚か耕作を中断しても、全体の収量や収益に影響はない。むしろ、無農薬栽培の実践として消費者の信頼を獲得している。
また、水田1枚ごとの生産履歴を蓄積しており、市販されている有機肥料の違法が摘発された際にも、水田ごとの有機栽培の適否を判断し、有機JAS認証が継続された。この件では、多くの有機栽培農家が認証を取り消されている。
◆水田における炭素の蓄積
日本の水田では、化学肥料を利用した浅耕撹拌の肥培管理体系が定着し、有機物の投入が敬遠されてきた。また、有機物は初期生育時の有毒ガス発生の原因にもなるともいわれていた。そのような中で、「あぐり」の長期にわたる有機肥料のみを用いた水田管理は珍しい。
一つの水田を取り上げ、2004年から2008年までの5年間にわたる全炭素と全窒素の空間分布を比較した(図2)。5年間の施肥管理により、全炭素のほ場平均が1.5倍に増大。全窒素では、2004年が異常に高く、2005年以降は増大傾向をみることもできるが、増減の判断は困難だ。
全炭素の空間分布は、南東部が高くて北西部が低い傾向が同じで、全窒素ではほぼ均等な分布だった。
2004年から2008年にかけては、有機肥料の投入量を増やし、収量も漸増傾向だった。また2016年以降、収量が近隣の化学肥料を用いた慣行法と同等のレベルになった。有機肥料のみで慣行法と同等の収量を獲るのは珍しいことであり、今後の分析が注目される。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米多収日本一 山口県のあぐりてらす阿知須 10a当たり863kg2025年3月3日
-
【特殊報】ナシ胴枯細菌病 県内で初めて発生を確認 島根県2025年3月3日
-
政府備蓄米売り渡し 入札 3月10日に実施 農水省2025年3月3日
-
新潟県の25年産米概算金「コシ2.3万円」 早期提示に歓迎の声 集荷競争、今年も激化か2025年3月3日
-
米の集荷数量 前年比23万t減に拡大 農水省2025年3月3日
-
米価高騰問題への視座【森島 賢・正義派の農政論】2025年3月3日
-
【次期家畜改良目標】低コスト、スマート農業重視 酪農は長命連産、肉牛は短期肥育2025年3月3日
-
【改正畜安法の現状と課題】需給対策拡大が焦点 問われる「国主導」2025年3月3日
-
あなたたちは強い〝武器〟を持っている JA全国青年大会での「青年の主張」「青年組織活動実績発表」講評 審査委員長・小松泰信さん2025年3月3日
-
JA農業経営コンサルタント 15人を認証 全中2025年3月3日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年3月3日
-
農業用バイオスティミュラント「エンビタ」とは 水稲育苗期にも効果 北興化学工業2025年3月3日
-
アミューズメント施設運営「ティスコ」株式を譲受 農林中金キャピタル2025年3月3日
-
「2025ローズポークおいしさまるごとキャンペーン」でプレゼント 茨城県銘柄豚振興会2025年3月3日
-
福岡ソフトバンクホークスとのオフィシャルスポンサー契約更新 デンカ2025年3月3日
-
ファーマーズ&キッズフェスタ2025 好天で多数の参加者 井関農機は農業機械体験2025年3月3日
-
【今川直人・農協の核心】産地化で役割が高まる農協の野菜取り扱い2025年3月3日
-
野菜がたっぷり食べられるカレー味「ケンミンカレー焼ビーフン」新発売2025年3月3日
-
第164回勉強会『海外市場での植物工場・施設園芸の展開』開催 植物工場研究会2025年3月3日
-
春の山梨の食材の魅力を伝えるマルシェ 5日から国分寺マルイで開催 雨風太陽2025年3月3日