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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】農協は消費者も守る2019年8月22日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

◆「消費者価格が高くなる」は間違い

 農協や漁協は「生産者価格を高めるが消費者が高く買わされる」、生協の産直やフェア・トレードは「消費者に高く買ってもらう」と考えられがちだが、これは間違いである。
 コーヒーの国際取引でグローバル企業のネスレなどの行動で問題にされるのは農家から買いたたいて消費者に高く売って「不当な」マージンを得ていることである。国内取引でも同じで、流通・小売業界の取引交渉力が強いことによって、中間のマージンが大きくなっていることが問題なのである。ということは、流通・小売マージンが縮小できれば、生産者には高く、消費者には安くなるはずである。流通・小売に偏ったパワー・バランスを是正し、利益の分配を適正化し、生産者・消費者の双方の利益を守る役割こそが協同組合の使命である。


◆「私」「公」「共」の相互関係

 我々の経済社会システムは、次の「私」「公」「共」の相互関係で成立している。
「私」=個人・企業による自己利益追求。市場を万能視した目先の金銭的利益の最大化のための「収奪」的経済活動。命、資源、環境、安全性、コミュニティ、公平性などへの配慮を欠く「今だけ、金だけ、自分だけ」になりかねない。
「公」=国家・政府の政策による誘導・規制・再分配。「私」の暴走を抑制するには有効だが、国家管理だけで社会全体を動かそうとすれば、活力が失われる。行政コストも莫大になる。
「共」=自発的な共同管理、相互扶助、互酬(reciprocity)、利他、共助・共生、のシステム。その運営主体が協同組合など。「収奪」的経済活動による弊害、すなわち、利益の偏りの是正に加え、命、資源、環境、安全性、コミュニティなどを、共同体的な自主的ルールによって低コストで守り、持続させることができる(このことを証明したノーベル賞受賞のオストロム論文などがある)。


◆「共」が生産者も消費者も守る

 「公」「共」をなくして「私」のみにすれば経済的利益は最大化されるというのが市場原理主義経済学だが、その前提条件の「完全雇用」(=失業は瞬時に解消される)「完全競争」(=誰も価格への影響力を持たない)は実在しない。実態は、「勝者」が市場支配力を持ち、労働や原材料を「買いたたき」、製品価格の「つり上げ」で市場を歪めて儲けを増やす。その資金力で、政治と結びつき、さらに自己利益を拡大できるルール変更(レント・シーキング)を画策するため、「公」が「私」に私物化されて、さらなる富の集中、格差が増幅されるのは「必然」的メカニズムである。
「公」を取り込んだ「私」の暴走を抑制するのが「共」の役割である。単純化すると、例えば、(想定上の)完全競争市場なら流通業者はコメ1kgを100円で買って100円で売る(流通業者の費用を除く)が、市場支配力のある流通業者は70円で買いたたいて120円で売るという商売をする。今、農協の存在によって、流通業者の市場支配力がある程度相殺されると、現実の流通業者は80円で買って110円で売ることになる。あるいは、既存の流通業者が生協に取って代わることによって、生協が80円で買って110円で売ることができるとする。つまり、農協共販や生協の共同購入によって、農家は今より10円高く売れ、消費者は今より10円安く買うことができるのである。こうして、農協共販や生協の共同購入によって、生産者も消費者も利益が増え、社会全体の利益も増える(共販・共同購入に伴うコストが増加利益を下回るかぎり)。

岡部光明(2009)の図を若干改定岡部光明(2009)の図を若干改定

◆社会も経済モデルも「共」が不可欠

 だから、経済分析も、「私」「公」の2部門モデルから「共」の役割を明示的に組み込んだ3部門モデルに拡張される必要がある(岡部光明慶応大学名誉教授)。筆者の農協共販の効果を計測する長年の研究は、まさに「共」の役割のモデル化であった。
 今、「私」の暴走にとって障害となる「共」を弱体化しようとする動きがあるが、だからこそ、逆に、これからの社会は共助組織、協同組合の役割をもっと強化する方向に転換すべきである。協同組合は、生産者にも消費者にも貢献し、流通・小売には適正なマージンを確保し、社会全体がバランスの取れた形で持続できるようにする役割を果たしていることを、そして、命、資源、環境、安全性、コミュニティなどを守る最も有効なシステムとして社会に不可欠であることを、国民にしっかり理解してもらうために、実際にその役割を全うすべく、邁進しなくてはならない。

参考文献
岡部光明(2009)「経済学の新展開、限界、および今後の課題」、明治学院大学『国際学研究』第36号、p.29-42。

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