【坂本進一郎・ムラの角から】第20回 矢吹晋著「対米従属の原点ペリーの白旗」を読んで2019年8月28日
(1) 白旗はあったか、なかったか
アメリカ(ペリー)の砲艦外交(恫喝外交)に日本はどう対応したのか。著者の見立ては、無視(逃げる)か跳ね上がりのどちらかだという。それはペリーの「白旗文書」の扱いに垣間見られるという。「白旗文書」をめぐって、「白旗論争」が起きたからである。
それなら、「白旗論争」とは何か。ペリーの黒船来航の時、国書を収めた箱と共にもう一つの箱を奉呈した。このもう一つの箱をめぐって、行われた論争のことである。もう一つの箱の奉呈を思いついたのは、ペリーの指南役のウイリアムスで、彼は16年前漂流難民を助けようとして、モリソン号で下田に近ずいたところ、幕府の「打払い令」で砲撃され目的を達せられなかった。そこで、黒船来航時考え出したのが「恫喝」である。もう一つの箱には白旗と共に白旗の意味を説明する説明書を収めていたのである。国書を受け取らないときは砲艦を打つので、参ったと思ったら白旗を上げて交渉に応ずべきだ、というのがもう一つの箱の趣旨だ。「説得と恫喝」を組み合わせて目的を達しようというものである。
結局、幕府は国書を受け取るが、砲艦攻撃はなかった。ところが、今、「白旗はなかった」、「あった」という議論が起きているという。著者の立場はあったという立場である。なかったというのは事実に反し、あったというのは事実に添うからである。あったという事実ははっきりしているのに今やなかったというのが、残念ながら定説にもなっているという。それはとにかく、その定説を覆すため、本書は謎を解くように欠落部分を補いながら、実事求是の作業をしている。確かに実在した白旗の事実をはっきりさせる作業だ。
さらに突っ込んで、なぜ「白旗論争」なのか。日米それぞれの思惑がある。日本は国是として鎖国を行っていたので記録に書くことはぼかした。ペリーもこんな恫喝の越権行為は議会で追及されたであろう。そこでぼかした。そこまではいい。本当のことを知らねば、どう対処するのか、模索になる。判断を誤れば国の行方を間違わせ、国家主権を失うことにもなる。なかったと言うのは「知的怠慢」で、今日国家主権を損なわせる原因ともなっている、と著者は言う。「知的怠慢」が白旗論争を起こしたとも、著者は言う。砲艦外交の全体を見てこそ、国の行方をあやめる事を防ぐことが出来るとも、著者は言う。私もそう思う。
(2)「恫喝」はあった
「恫喝」があったということをはっきりさせることで、その恫喝を批判できるであろう。そういう意味で、占領軍内部から占領政策を批判したのは、アメリカ人女性のミア―ズである。彼女の問題意識は、第一次大戦期には同盟国の関係であったのに、日米開戦に至ったのはなぜかということである。日本の戦争犯罪はアメリカが日本に教えたものだという。
私はこの点で石原莞爾の発言を思い出す。極東裁判で日本を糾弾するなら、「日本に外交上のパワーポリテックス(弱肉強食)を教えたのがペリーだから、ペリーを連れてこい」と言っているのは注目に値する
私は本書を読んでいて、コメ自由化問題と白旗問題が重なり合っていることに、気がついた。そこでヤイタ―農務長官に抗議文を送ったのを思い出した。それは「拝啓、ヤイタ―農務長官様、1990年6月8日」という文書だ。ヤイタ―の山本農水大臣への恫喝は余りにきつかった。そこでインンデアン狩りという非難の言葉が口を衝いて出て来た。それは我々(私)の怒りの気持ちが強かったからだ。さすがこれを翻訳してくれたカナダ生まれの宣教師ロバート・ウイットマー氏は「the native people of North America」と柔らかく翻訳している。だが「ペリーの横柄な作風」とヤイターのそれは余りに似ているのだ。
日本人は融通無碍で、原則に弱い。ぺリ―来航で示したのは、この日本人の気質だろうか。強い言動に対抗するには、強い言動で当たるのが外交に必要でないかと思う。
ペリーは悪貨を持ってきて日本の銀(当時日本は実質銀本位制であったようだ)と取り換え貨幣制度を乱したと聞いたことがある。本当かどうか、ペリーに対して私のイメージは良くない。
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