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【澁澤栄・精密農業とは】精密農業は経済性があるか2019年9月3日

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【澁澤栄・東京農工大学特任教授】

田面均平の程度が収量と収入に影響

 精密農業は営農マネジメント戦略である。新技術は手段であり目的ではない。組織や仕組みを変えずに新技術のみを導入すると、余計な経費がかかり、「経済性なし」の判定が下る。逆に、新技術にふさわしい仕組みへの変更を考えるとどうなるだろうか。

◆可変施肥の経済効果

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 まず、この連載の第2回目で取り上げた可変施肥を考えてみる。
 図1は、農作業技術が専門の農学博士、国立卓生(こくりゅう・たくお)氏らが実施した2000年当時の石川県水稲経営の調査事例だ。基礎データとして、石川県の中核農家の平均水準である水稲収量500kg/10a、販売額14万円/10a、窒素施肥量7.2kg/10aを用いた。
 施肥前の土壌窒素(腐植含量で代替)のばらつきが変動係数(標準偏差/平均値)にして33%、51%、78%を仮定した。仮に高精度の施肥機械を用いて均等施肥を実行した場合でも、ばらつきはそのまま残る。
 窒素のばらつきに対して、2種類の可変施肥戦略を検討した。ひとつは、施肥量を同じにして、過不足を均一にした場合、収量増加による売上げ増加はせいぜい1%~2%。一方、過剰部分の施肥をカットしても収量は同じだが、肥料は10%~20%の削減で、経費では施肥量一定・収量増の戦略の1/3の経済効果だ。施肥削減より収量増の経済効果が高い。
 しかし、肥料価格が2倍以上になると逆転。可変施肥を実行するには、新規機械の導入に100万円以上が必要だ。2万円/ha収益増の場合、数十~数百ヘクタール規模の水田群が技術の評価単位になる。数百ヘクタール規模の水田群をひとまとまりにして管理する仕組みをどのようにつくるかは、農業経営分野の課題である。


◆土壌マップに農家はいくら払うか

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 ほ場の土壌ばらつきを地図にした土壌マップの作成は、精密農業の基礎。そこで、石川県の水稲農家300軒ほどに、「土壌マップサービスの対価はいくらか」というアンケート調査をした。精密農業の必要性に対する現役農家の意識がわかる。
 図2に示すとおり、半数の農家が購入意思を表名するには、7種の土壌成分で2000円、5種の土壌成分で1000円が10aあたりの対価。3つの成分では興味なしといったところだ。
 しかし、精度の高いGPSによる田面均平の程度を加えると、3成分でも2000円、5成分で3000円、7成分では4000円が対価になるという。すなわち、田面の高低差の均平度が収量および収入に影響する重要な情報であることがわかった。
 追跡ヒアリングの結果、10年のスパンでみると2割くらいの収量変動がある。土壌マップの利用によって、マイナス側が半分になると、1万5000円の売上げプラスが期待でき、その2割である3000円を保険として毎年投資しても元は取れるという経営シナリオがあった。


◆経済性の本丸はフードチェーンの変更

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 図3に示すように、農産物の生産と流通を眺めると、生産から消費の現場にわたって複雑な仕組みになっている。例えば、生産の場では、個別のほ場から産地を単位にして出荷するまで様々な組織が関与し、そのための経費とリスクおよび利益が発生している。消費の場でも、卸から個人消費者に届くまで、様々な組織が関与し、経費とリスクと利益が発生。流通の場は、生産の場と消費の場を接続する多様な物流手段と取引ルールを提供している。
 精密農業の導入で生産の場の情報とリスクが共有でき、同じように消費の場の情報とリスクの共有が可能になれば、ほ場と消費者個人を接続する多様な仕組みが可能になり、その経済効果を算定することが可能になるだろう。これが、新しい課題である。


本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
東京農工大学特任教授 澁澤栄氏のコラム【精密農業(スマート農業)とは?】

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