【熊野孝文・米マーケット情報】新古格差、銘柄間格差、等級間格差はどのように決まるのか?2019年9月3日
大阪堂島商品取引所(以下堂島取)は8月29日に開催した臨時理事会で、今年10月に受渡しされる30年産米の価格調整表を決めた。10月から令和元年産が受渡しの基準品になるので30年産は1年古米として値引きされることになる。9月に入り新米が本格的に出回る時期になったので新古格差や等級間価格差、銘柄間格差について触れてみたい。
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堂島取で決定した新古格差は新潟コシ1等が60㎏当たり1500円減額、2等が2100円減額になっている。仮に売り方が10月限の納会で30年産を渡した場合、納会価格から1等なら1500円、2等なら2100円値引きされる。10月限の納会価格がいくらになるか分からないが、8月30日の引値は1万6720円である。この価格のまま納会日に受渡しされると30年産1等は1万5220円になる。2等は1万4620円になってしまう。現物市場でも堂島取が決めたような新古格差で取り引きされるかというとまったくそうしたことにはならない。
では、なぜ堂島取は過大ともいうべき1500円もの新古格差を設定したのか? これは10月からあくまでも元年産米の価格を示現する先物価格を形成する必要があったからである。
極端な話、新古格差をゼロにした場合どうなるかというと、売り方は現物市場で価値が劣る30年産米を渡すことになり、先物市場の価格は30年産米の価格形成を行う場になってしまう。実際にそうした現象が小豆の先物市場で起きたことがある。
納会で現物を渡すには、売り方は取引所が指定した倉庫に現物を搬入、その倉庫から倉荷証券を発券してもらい、それを取引所に提出する必要がある。納会が終わると倉荷証券の裏に所有者変更が記載される。現受けした買い方は、その現物を製餡業者等実需に販売しても良いが、先物市場で期先限月が高値になっていた場合、売りヘッジしても良い。保管料や入出庫料等経費を上回る価格が先物市場で形成されていた場合、鞘取りが出来る。小豆の倉荷証券ではそうした先物市場での受け渡し専用になったものもあり、裏面に書き切れないほど所有者がコロコロ代わっている倉荷証券もある。その穀物の需給が緩んでいるときには、取引所が新古格差を拡大しても前年産や前々産のものが渡って来て、「ヒネ(旧穀)相場」が形成される。そうならないために取引所の格付けは極めて重要なことなのだが、格付け委員会で格差を設定する際に何か算出方法のようなものがあるかというと全くそうしたものはない。あくまでも現物市場の情勢を見ながら決めるというだけである。
では、その現物市場でどうやって新古格差が決まっているのかというと、売り手と買い手の相対で決まる。元年産新潟コシヒカリが市中で1万6500円で取引され始めた際、30年産がいくらで売れるかも相対で決まる。仮に新古格差500円で成約した場合、その格差がどのような要因でそうなったのか説明するのは容易ではない。その時の需給要因から量販店での売れ行き状況など様々な要因が絡み合う。分かりやすく言えば新古格差は極めてファジーなものだと言うしかない。
リゾット用に使用されるカロリーナは年産が古いものほど価値が高く、3年古米が最も価値が高いというのだから食文化によっても違ってくる。同様に銘柄間格差もファジーな要素が多く、特にブランド米の価値など算出しようがなく、それを知りたかったら、文字通り相場に聞くしかない。
それに比べると等級間格差は分かりやすい。それを判断する要素として最もわかりやすいのは精米歩留りである。その産地の銘柄米の1等と2等を精米して白米にした際に歩留りデータが出る。米穀業者が最も気にするのが精米歩合で、1%違っただけでも収益に大きな差が出るので1等と2等の格差には敏感だ。
全農は卸業者等に元年産米の1~2等、1~3等格差を改定したものを通知した。40産地地区の一覧表を見るとほとんどの産地が1~2等格差をそれまでの半分の300円/60㎏玄米に改定している。変えていないのは北海道で600円のままである。もう一県、長野県は700円に設定している。
コメの1~2等格差を振り返ると農産物検査法の改定で現在のような1等、2等、3等、規格外という設定がなされたから1~2等格差が1000円という時代もあったが、長らく500円~600円という格差が続いた。それが元年産から多くの産地が半分の300円にしたのだが、この格差が市場取引の実態価格を参考にして決められたのなら良いのだが、そうではなく全農系統の判断でそうした格付けがなされた。格差を縮小した方がその産地のコメが売れるというのならそれでも良いが、そういう事にはならないことだけは間違いない。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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