【小松泰信・地方の眼力】だれがサイレントマジョリティやねん2019年9月4日
検事:執行猶予が付けば大した罪じゃないじゃないですか。
村木:えぇ、それって黒でしょ。執行猶予が付いても黒は黒でしょ。それが大したこと無いってどういう意味! 検事さんたちの常識は狂っている。私は公務員として、信用を大事にして今まで仕事をしてきたんです。認めるってどういうことですか!
検事:ちょっと休憩にしましょう。
(しばし休憩の後)
検事:村木さんは僕たちの常識が狂っていると言いましたが、確かにそうだったかもしれません。
村木:職業病ですよね……
(村木厚子元厚労省事務次官が語る検事とのやりとり概要。TBS『アサコの朝』8月31日放送より)
村木氏は虚偽公文書作成容疑など身に覚えのない容疑で逮捕され164日間に及ぶ拘置所生活ののち、2010年9月10日に無罪判決を勝ち取った。
役人も検事も忖度競争で劣化の一途をたどる今となっては、これとても昔話か。
◆やじを飛ばせば、もれなくデカが飛んでくる
東京新聞(8月28日付)によれば、埼玉県知事選の応援演説をしていた柴山昌彦文部科学相に対し、大学入学共通テストに反対するやじを飛ばした男性が県警に取り押さえられた。柴山氏は27日の閣議後会見で「大声で怒鳴る声が響いてきた。選挙活動の円滑、自由は非常に重要。そういうことをするのは権利として保障されていない」と述べた。
8月24日夜、JR大宮駅近くで、柴山氏が街宣車から演説を始めた際、男性は「柴山やめろ」「民間試験撤廃」と叫んだ。その後、県警関係者とみられる数人に囲まれ、抵抗したが、遠ざけられたそうだ。
取材に応じた目撃者によれば「声はそこまで大きくはない」とのこと。埼玉県警幹部は、県警がその場にいた男性を取り押さえたことを認め、「男性は街宣車のすぐ近くに近づいている。警護対象に危害を加える可能性がある場合、取り押さえるのはやむを得ない」とした。
◆警察やりすぎ、政権やらせすぎ
東京新聞(8月30日付)は社説で、柴山氏が、「『表現の自由』を理解していないのではないか」としたうえで、「選挙の街頭演説を、私たち聴衆はひと言も発せず、黙って聞け、ということなのか」「駅前という開かれた場での選挙活動である。そこに集まった人たちには政権の支持者もそうでない人たちもいて当然だ。そうした場でも、政策への賛否を言い表すことは許されないのか」と問う。
その上で、「埼玉の事例は、やじで演説が続行できなくなるような悪質な行為に当たるとはとても思えない。もし選挙妨害に当たらない段階で、公権力がやじを強制排除したのなら、明らかに行き過ぎだ」として、政治家なら「警察の公権力行使が表現の自由を侵しかねないことへの懸念」こそ、語るべきだとする。
「憲法で保障された『表現の自由』の下で、やじを飛ばした市民を強制排除する法的根拠を警察はまだ説明していない。安倍政権の下で、公権力による異論の封殺が常態化しつつあるとすれば危険である」とするのは、高知新聞(8月30日付)の社説。
公職選挙法が演説妨害を「選挙の自由妨害罪」と位置付けてはいるが、「1948年の最高裁判決は『聴き取ることを不可能または困難ならしめるような』行為としている」ことを紹介し、この事案が「これに該当するとは思えない」とし、埼玉県警に「市民の自由を奪った法的根拠の説明」を求めている。
さらに、「警察法は、警察が責務を遂行するに当たって『不偏不党』『公平中正』を旨とし、憲法が保障する個人の権利、自由に対する権限の乱用があってはならないとしている」ことから、政権に対する忖度の可能性を示唆している。
そして、「政治家の街頭演説は、支持者だけでなく、幅広い聴衆に訴えかける機会のはずだ。公権力の過剰な対応が続き、人々が萎縮して自由にものが言えなくなっては戦後民主主義に逆行する。こうした事案が続いていることを警察は組織全体で検証し、説明する姿勢を持つべきである」と、警察の姿勢に言及する。
朝日新聞(8月29日付)の社説も、「ヤジを飛ばした市民の排除を是認するかのような閣僚の発言は、警察の行き過ぎた実力行使を助長しかねない。到底見過ごすわけにはいかない」とする。
「ヤジも意思表示のひとつの方法であり、これが力ずくで排除されるようになれば、市民は街頭で自由に声を上げることができなくなる。その危うさに、柴山氏は思いが至らないのだろうか」と、彼の想像力に疑問を呈する。
さらに、「大学生が抗議した入試改革は、実施が目前に迫るなか、英語の民間試験導入の全体像が固まらないなど、受験生や保護者らの間に不安が広がっている」ことに端を発した行動であることから、「教育行政の責任者としてまずなすべきは、批判に謙虚に耳を傾け、政策に生かすことではないのか」と、大臣としてのイロハを教示する。
◆「夏休み」は終わってますけど
西日本新聞(9月4日付)の社説は、「いつまで『夏休み』ですか」という見出しで、「国民を代表して法律をつくり、行政府を監視し、国政全般の議論をする国会」が、10月初めまで休む予定であることを皮肉っている。
悪化する日韓関係、米国が求める有志連合への対応、日米貿易交渉、年金財政検証、かんぽ生命保険問題、そして上野宏史、丸山穂高、両議員に象徴される国会議員の資質問題。まさに国内外にわたる問題は山積していることから、「臨時国会を早期に招集できない事情があるのなら、閉会中審査でもいい。問われているのは、激動する国内外の情勢を見誤ることなく、国民本位の視点で臨機応変に議論する国会の基本的な姿勢である」と、厳しく迫っている。
よくよく考えれば、国民を代表する議員たちとの論戦からは逃げたいし、行政府の長としては監視されたくない。自分のお友達の問題には関心があるが、国民全般の問題には無関心。やじるのは好きだが、やじにはめっぽう弱い「ノミのシンゾウ」。そんな安倍首相に、国会の基本的姿勢が理解できるわけがない。
8月16日、前出の柴山氏はTwitterに寄せられた「大学共通テスト反対」の声に、「サイレントマジョリティは賛成です」と投稿。聴く気もなく、己の穢れた手で耳を塞いでいる者に、「声をあげない大多数の人々は賛成です」とは言わせない。
北海道の成田強さんが、「ヤジでない止むにやまれぬ民の声必死の直訴を警官排除す」(しんぶん赤旗日曜版、9月1日号)と、短歌を通じて民の声を発するように、当コラムも発言し続ける。
「地方の眼力」なめんなよ
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