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【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第68回 農をいとなむ民の四季(2)2019年9月12日

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【酒井惇一・東北大学名誉教授】

 私の生まれ育った山形の内陸には低くなだらかな丘がない。峨々とそびえる山々に四方とり囲まれている。平野部出身の家内は、山形に最初に来たとき、盆地を取り囲む四方の山々に押しつぶされそうだ、息が詰まりそうだと感じたという。

20190530 昔の農村今の世の中 図1


 山形の秋は、まわりを囲んだこの峨々たる山々から紅葉の帯になって里に降りてくる。まず、緑だった山の頂が紅・黄・茶色の綾をなして染まる。その紅葉の下線が徐々に降りてくる。そのうち、山の最上部は枯れ木の灰色となり、その下に紅葉の帯ができ、そのまた下は今まで通り緑と、山は三層に彩られるようになる。

 日を追うにしたがい紅葉の帯は下に降り、やがて家の近くが紅葉となり、山全体が灰色になる。その頃のある寒い朝、起きてみると山頂の方が真っ白になっている。雪だ。そのころから吐く息が白くなる。

 朝方、道ばたで落ち葉焚きをしていると、背中をまるめて歩いてきた通学途上の子どもたちがその前で立ち止まり、ちょっとの間手と顔、お尻を暖める。道路に薄く張ったスガ(氷)を足でぱりぱり割って遊びながら、学校に向かってまた歩いていく。
 やがて雪がやってくる。最初はゆっくり、徐々に速度をあげ、ある日猛スピードで雪の白が山から里へと降りてくる。そして見渡す限り白となる。

 一面の雪は、家々の田畑のまた山野の色を消し、音を消し、匂いを消し、人々を家に閉じ込めるが、その景観と静寂は、さらに荒れ狂う吹雪は、また一種独特の風情を感じさせる。いろりの火とこたつの暖かさは身体も心も和ませる。
 田畑の仕事のできないこの冬の間は小屋のなかに山のように積まれたわらの匂いをかぎながら、あるいはいろりの火のまわりで薪の煙の匂いをかぎながら、生産と生活に不可欠の縄ない、俵編み、草履・草鞋づくり、筵・菰づくり等々をしながら、ゆっくりと春の来るのを待つ。

 農は、前回と今回述べたような景観、色、匂い、音などの移ろいのなかでいとなまれる。
 農をいとなむ民は、生産と生活を通じてそれらを自ら創り出してもいる。新しい生産物を創り出し、田畑や作物の多様な色、匂い、音を、そして農村の景観を、つまり一種の芸術品を、自然と共同で創造している。こうしたことからいうと農民は芸術家である。
 そして農民はこの芸術の創造の過程での喜び、たとえば芽生えの喜び、慈しむ喜び、実りの喜びを味わう。また、四季折々で、天候で、毎日いや時々刻々変わる田畑、それを取り囲む雑木林や山々、川、動植物等々の音、匂い、色、景観を感じ取る。人間と自然が共同で創り出したさまざまな芸術作品を楽しむのである。
 もちろん自然は美しいばかりではない。ある時は凶暴な牙を剥いて農地に、作物や家畜に、さらには人々にまで襲いかかる。暴風雨、洪水、干魃、日照不足、異常低温、豪雪、地震、流行病、怪我などなど、数限りない。こうした暴威に遭遇したとき、人々はただただ立ちすくみ、嘆き、畏れ、ひれ伏し、祈る。さらには怒り、一人であるいは手を取り合って抗い、立ち向かう。そして前よりも高い収量を得る技術、前よりも優れた品質の農作物や家畜を、さらにより高い生活様式を創り出す。

 こうした楽しみ、喜び、感動、そこにいたるまでの慈しみや労苦を、さらに嘆き、畏れ、祈り、怒り、抗いを、詩歌や文章で、絵や彫刻で、音楽や踊り、芝居で、最近ならば写真や映像で表現したい、そしてみんなに伝えたい、後世に残したい。こう考えるのは人間としての自然の欲求であろう。こうした面からも農民は芸術家たらざるを得ない。

そのほか、本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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