【浅野純次・読書の楽しみ】第42回2019年9月17日
◎将棋面貴巳『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房、1824円)
愛国ほど厄介なテーマはないでしょう。愛国の名の下に国が救われることもあれば、他国を侮辱し侵略に向かうことさえあります。どのような国を、いかに愛するのかが常に問われるのであり、ひどい国は実態をまず直視すべきなのでしょう。
著者は留学から教職まで含めて27年間、海外に暮らして、外から日本のあり様を注視してきたそうです。
「愛国」は奥が深く一筋縄ではいきません。それでもいろいろなエピソードや著名人の話などを組み合わせ、愛国とは何か、国を誇りに思うとは、愛国の落とし穴、国によって違う愛国の処し方、などと多面的な分析、解説が続きます。
何より大事なのは愛国(パトリオティズム)には2種類、つまりナショナリズム的なそれと共和主義的なそれがあるということ。前者は国の短所には目をつぶり、ひたすら国を溺愛します。後者は欠点にもしっかりと向き合い、自国を誇らしく思う一方で恥じ入るような真実も受け入れる、というのです。
面白いのは、前者は群れることで成立し、後者は一人で考え行動することが可能だということ。そして権力に対し批判的態度をとることが愛国的なのだとも。真の愛国者であるためにはまだまだ勉強が必要なようです。
◎中路啓太『昭和天皇の声』(文藝春秋、1728円)
ロンドン海軍軍縮会議を描いた『ロンドン狂瀾』など昭和史を題材にした歴史小説で傑作を次々に世に問うている著者が『オール読物』に連載した短編5本をまとめたもので、どれも一気に読まされました。
永田鉄山軍務局長を陸軍省内で斬殺した相沢三郎中佐、2・26事件の兵士と辛くも生き残った鈴木貫太郎侍従長(のち首相)と夫の命を守り支え続けた妻たか、そして昭和天皇。主人公たちは立場こそ違え、それぞれ主義主張に生きようとして苦悩します。
昭和天皇が主役の「地下鉄の切符」は関東軍に振り回される田中義一首相を事実上、退任させた天皇が立憲天皇と専制君主のはざまで揺れる姿を描き切って大いに考えさせられます。
異色は共産主義者から転向した田中清玄の戦後の生き方で昭和天皇とのまさかの会見場面など興味津々です。昭和史を学問的に探るのも大事ですが、こうやって楽しみながら理解し、今に思いを広げるのはまさに「読書の楽しみ」でしょう。
◎マックス・ウェーバー原作『支配されるか、支配するか』(講談社まんが学術文庫、756円)
初めにお断りしておきますが、これはマンガです。でも版元は「学術」文庫としてシリーズ化しています。マルサス「人口論」、マルクス「資本論」、ルソー「エミール」、ドストエフスキー「罪と罰」など20冊以上も出ている中から、ウェーバーを選んでみました。
支配関係を論じた遺稿集「経済と社会」など読まれた方は少ないでしょうが、そのエッセンスを占領下のマッカーサーと児島ヨシオという大物ヤクザを主人公にして描いていてなかなか面白い。
暴力の独占は支配者の常套手段であり、警察も暴力団も合法か非合法かの違いだけでやっていることは同じ、みかじめか税金かの違いだけだ、には笑ってしまいます(ちょっと不謹慎かも)。
マッカーサーと天皇が面会する有名な場面もありますが、権力への服従と天皇制の役割の説明へとつながっていくなど、わかったような気になるのはマンガならでは。たまにはマンガもいいのでは。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(130)-改正食料・農業・農村基本法(16)-2025年2月22日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(47)【防除学習帖】第286回2025年2月22日
-
農薬の正しい使い方(20)【今さら聞けない営農情報】第286回2025年2月22日
-
全76レシピ『JA全農さんと考えた 地味弁』宝島社から25日発売2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年2月21日
-
農林中金 新理事長に北林氏 4月1日新体制2025年2月21日
-
大分いちご果実品評会・即売会開催 大分県いちご販売強化対策協議会2025年2月21日
-
大分県内の大型量販店で「甘太くんロードショー」開催 JAおおいた2025年2月21日
-
JAいわて平泉産「いちごフェア」を開催 みのるダイニング2025年2月21日
-
JA新いわて産「寒じめほうれんそう」予約受付中 JAタウン「いわて純情セレクト」2025年2月21日
-
「あきたフレッシュ大使」募集中! あきた園芸戦略対策協議会2025年2月21日
-
「eat AKITA プロジェクト」キックオフイベントを開催 JA全農あきた2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付、6月26日付)2025年2月21日
-
農業の構造改革に貢献できる組織に 江藤農相が農中に期待2025年2月21日
-
米の過去最高値 目詰まりの証左 米自体は間違いなくある 江藤農相2025年2月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】有明海漁業の危機~既存漁家の排除ありき2025年2月21日
-
村・町に続く中小都市そして大都市の過疎(?)化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第329回2025年2月21日
-
(423)訪日外国人の行動とコメ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年2月21日
-
【次期酪肉近論議】畜産部会、飼料自給へ 課題噴出戸数減で経営安定対策も不十分2025年2月21日
-
「消えた米21万トン」どこに フリマへの出品も物議 備蓄米放出で米価は2025年2月21日