【小松泰信・地方の眼力】とんだ妄言キタムラダイジン2019年9月18日
「みんなが困らないように生活していくには、誰かが犠牲、誰かが協力するという積極的なボランティア精神で世の中は成り立っている」と語るのは、長崎県選出の国会議員北村誠吾・地方創生担当相。9月14日、地元長崎県佐世保市における記者会見で、9月11日付の当コラムが取り上げた、「石木ダム」建設問題に言及して。(毎日新聞、9月15日付)
◆何がボランティア精神ですか
古里であり日々の生活の場でもある所を、納得できない理由で追い払われようとしている人々に、ボランティア精神を説く、あまりの不見識さに開いた口が塞がらない。この程度の人が地方創生のリード役とは、地方もなめられたものだ。
記事の続きには、氏が県や市の姿勢も批判し、反対の地権者が納得するまで議論を尽くす必要がある、と指摘したことが添えられている。しかし、冒頭の罪深き発言を無かったことにはできない。半世紀にわたる反対運動で、どれだけの犠牲を地権者家族は払わされてきたことか。ほんの少しでもそこに思いを馳せれば、出てくる発言ではない。県の関係者、機動隊員、警察官、工事関係者、みんな変わる。その人たちにとっては人生の一コマにすぎない。しかし当事者にとっては、大切な人生の多くの部分を奪い去るものである。
「宅地が奪われようとしている全国的にもまれな状況を認識しているのだろうか。地元選出国会議員が一部の地域のために犠牲を強いるとはあきれて物も言えない」と、怒りの声をあげるのは反対地権者の炭谷猛川棚町議。(長崎新聞、9月15日付)
◆「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」の設立と「どぎゃんか集会」
さらに同紙は、県内外の国会議員を含む超党派議員73人が9月14日、「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」を設立したことを伝えている。
代表の城後光氏(波佐見町議)は「住民が納得しないまま進めるのはどうなのか。個人の権利の保護は議員が訴えるべきことだ」と主張。事務局長の山田博司氏(長崎県議)は「現地ではダムよりも、もっと必要なことをしてほしいとの声もある」と述べ、代表代行でもある炭谷氏は「同じ気持ちの人がこれだけいることに希望が出てきた。まだまだ頑張れる」と語っている。
西日本新聞(9月17日付、長崎南版)によれば、「石木ダム・強制収用あんまいばい!どぎゃんか集会」(小松注:あんまいばい→あまりにもひどいぞ。どぎゃんか→どうにか。しゅうかい→しましょうよ)が16日に開かれた。支援弁護団の馬奈木昭雄弁護士は「自分たちの権利は自分たちで守る。その戦いが石木ダムで行われている」と訴え、国民の権利は政権から与えられるものではなく、土地所有権についても「勝手に取り上げられるものではない」ことを強調。さらに北村氏の発言にも言及し、「時の権力者が一方的に犠牲になれという権利はない」と指弾した。
◆住民を犠牲にした水を飲みたくはない
――里山の田畑を朝日が照らす。赤や青のゼッケンを着けた住民たちが、いつもの場所に向かう。胸には「石木ダム反対」「強制収用反対」の文字。岩下すみ子さん(70)は午前7時45分に家を出る。住民が腰掛けるパイプ椅子の横を工事車両が砂ぼこりを上げて通る。「土日曜以外はほとんど毎日座る。こういう生活している人、おらんもんね」。終日座り込んだ日々もあった。股関節が痛むようになり、つえを突き、現場に続く未舗装の道を往復する。
――座り込みの現場から約300メートル離れた県道沿いに小さな掘っ立て小屋がある。座り込みに参加できない松本マツさん(92)らはここで午前中を過ごし「反対」の意思を示す。1982年、県が機動隊を投入してダム予定地の測量に踏み切った「騒動」が頭から離れない。当時も座り込んだ住民は腕を抱えられ、次々に引っ張り出された。踏み付けられる人もいた。「機動隊員が次から次へと押し掛けてね。小高い山から木の棒で指示してた。恐ろしかった。あれは受けてみんと分からんよ」
――地権者岩本宏之さん(74)は1950年代後半から13年間、熊本、大分県境の下筌(しもうけ)・松原ダム建設反対運動を率いた故室原知幸さんの言葉を胸に刻む。「公共事業は、法に叶(かな)い、理に叶い、情に叶うものであれ」
これらは同日の西日本新聞が社会面で伝える、日常の風景とも化した住民による座り込みの記事の抜粋である。
最後に、石木ダム建設は、利水というメリットを享受する佐世保市でも賛否が割れ、反対する市民団体が「住民を犠牲にした水を飲みたくはない」と訴え、朝長則男市長宛てに抗議文を出していることが紹介されている。
◆正論を展開する長崎新聞
「古里で静かに安心して暮らしたい。そんな誰もが抱く願いは聞き入れられなかった」ではじまるのは、2016年12月20日、反対地権者らが工事差し止めを求めた仮処分申請申し立てを、長崎地裁佐世保支部が「工事続行を禁じる緊急の必要性がない」として却下したことを取り上げた長崎新聞(2016年12月24日付)の論説。
1975年に事業採択されて以降、「反対地権者らは抗議活動を続けてきた。その立場からすれば『緊急の必要性』どころか、長期間にわたって平穏な生活を奪われている。そうした経過を含めダム事業の全体像に目を向けずに、事態解決は不可能だろう」とし、「強制収用を進めても、不幸な事態を積み重ねるだけだ。利水、治水における石木ダムの目的についても理解は得られていない。県は今ここで立ち止まり、事業の進め方を再検討すべきだ」としている。
さらに2018年1月16日付の同紙論説でも、「長い時の中で状況は変化し、その必要性には数々の疑義が呈されている」ことを指摘し、「大規模な自然破壊をもたらす公共事業には高い公益性が求められる。そして、公益のためだとしても、私有財産を奪い取り、個人の権利を制限するようなことには極めて慎重であるべきだ。反対派は石木ダム計画の妥当性を厳しく問うており、多くの県民も説明が不十分と感じている。こんな状況で強引な手法に出ることなど許されない」と、正論を展開する。
◆妄言大臣は去りゆくのみ
西日本新聞(9月18日付)は、予想通り、北村氏が、先の妄言について「一方的に犠牲を(強いる)という思いを持っているものではない。不快な思いをさせる表現だったのであれば、今後注意したい」と釈明したが、撤回や謝罪の考えは「ない」とのこと。さらに、馬奈木氏の指摘を念頭に置いてか、「権力者としてどうこうという気持ちはない」と強調したそうだ。
権力を持たされていることにも無自覚なこの人に今求めるのは、一刻も早く政界から消え去ることのみ。ぶわっかめぇ~!
「地方の眼力」なめんなよ
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