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【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(148)「心技体」と「心(思)言行」2019年9月20日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 武道やスポーツではよく「心技体」という言葉が用いられる。これは漢字の順番とは逆になるが、身体の発達、技術の発達や習得、そして精神の発達、これらが一致したときにこそ素晴らしい結果が伴う…というような意味で用いられることが多い。これはこれで一面の真実を表してはいるが、世の中そう上手くはいかない。

 なるほど、「心技体」が完全に一致すれば素晴らしい結果を伴う。だが、我々一般の人々の生活では、これが殆どあり得ない特殊かつ局所的・限定的状況であることがわかる。
 例えば、我々は「心」の中で思うことと、実際に口に出して「言う」こと、さらにそれを「行動」に移すことの間には大きな隔たりがあることを知っている。
 「今日は疲れたから仕事や勉強をしたくない」と思ってはいても、時間になれば出勤のための車や電車に乗り、学校では授業を受ける。また、口では「つまらない。何とかならないものか」などと言いながら、黙々と与えられた仕事を続けることも多い。学生達の多くは試験前になると「ヤバイ!全然勉強してない~!」と言いながら、実際にはしっかりと勉強しているため、周りのそうした言葉を信じて本当に勉強しない学生だけが試験では大変な目に合う。
 もちろん、「言うことと」と「行動すること」が余りにもかけ離れている場合、良ければ「夢」、悪ければ「法螺」や「嘘つき」になる。また、「言うこと」の内容に「約束」としての意味合いが付与されている場合などは、実際の行動を起こすか否かに「信頼」という別の要素が加わり、実行できたかどうかで評価がなされる。さらに、どのような奇想天外なことを考えていても、それが本人の「心」の中だけにとどまる限りは誰も何も言われないし、「思うこと」や「考えること」は自分だけの自由である。
 
 「心技体」の一致は、或る種の局所的・限定的な状況の中では極めて有効である。例えば、特定のルールに基づく競技やスポーツ、さらには仕事や学問などにも該当する。だからこそ、この3つを完全に一致させて素晴らしい結果を出した人は他の人に感動を与えるのである。
 だが、先に述べてきたようにこうした状況は極めて例外的である以上、我々の多くに必要なことは「心技体の不一致」の時に、「思うこと」「言うこと」「行動すること」、つまり「心言行」をどのようにコントロールし、理想形に近づけるかというスキルである。
 集合のベン図を作ればわかるように3者が一致しない場合とは、「考えるだけ」「言うだけ」「行動するだけ」、あるいは「考えても口に出さない」「口に出しても行動しない」「考えても行動しない」、そして「考えない、言わない、行動しない」という7通りがある。
 なお、今まで「思う」と「考える」を一緒に述べてきたが、厳密に言えば、「思う」ことと「考える」ことは単に情緒的な印象だけなのか、論理的な思考かどうかという違いがある。
 中学生から高校生、そして大学生くらいになると多くの場合、求められるレベルは「思う」ことから「考える」ことへと思考のレベルが一段上昇する。レポートや論文、そして対外的な発表などでも、ある事象について「思うこと」を「口に出して言い」、その結果を書くという「行動に結びつける」段階から、「考えたこと」を「口に出して(他人にわかるように)言い」、「(論理的な文章などで)書く」というスキルを求められる。ただし、これもまた3者の完全一致はほぼ困難であるため、それなりのトレーニングを積まなければ習得できない。これは一朝一夕には出来ないし、習得後に維持するのも大変である。
 組織の経営も全く同様であろう。一般に、組織外の人は通常、その組織の「理念・職員が口にだしていること・日々の行動」を見て判断する。組織内の人は、これら3つのバランスをとりつつ、現実にはほとんどあり得ないか存在してもわずかの期間にすぎないであろう理想形を"常に"想定した上で自分達の毎日の行動を見直していくしかない。
 終わりなき改善努力が求められる所以である。

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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