【小松泰信・地方の眼力】非清浄国化を恐れる非正常国2019年9月25日
江藤拓農水相が、養豚場の豚へのワクチン接種実施に向けて防疫指針の改定に着手する方針を正式に表明したのは9月20日。
「遅い!」と言わんばかりに、岐阜県恵那市の養豚場で豚コレラが発生した。同県によると、21日に養豚場から「1頭死んだ」と連絡があり、県の遺伝子検査で22日午前、21頭中18頭から陽性反応が出た。同市内の全6養豚場で感染が確認されたことになるそうだ。約8000頭を飼育しているとみられ、県は陸上自衛隊に災害派遣を要請し、全頭を殺処分するとのこと。
◆それでも遅いワクチン接種
東京新聞(9月25日)によれば、江藤氏は24日の閣議後の記者会見で、感染が広がる豚コレラのワクチン接種について、今後2カ月以内に開始できるとの見解を示した。農林水産省は廃棄する予定だった50万頭分のワクチンが11月末までなら有効であることを確認し、この50万頭分を活用するとのこと。「効果も安全性も担保できるというメーカーの回答なので、現実には優先して使用することになるのではないか」と氏は語っている。
それでもこの瞬間にも前門の虎は猛威をふるい、後門の狼すら迫っている。
◆後門の狼、アフリカ豚コレラ接近中
毎日新聞(9月22日付)は、韓国農林畜産食品省が21日、北部の養豚場で初めて発生したアフリカ豚コレラの感染拡大阻止に向け、養豚場に出入りする車両や関連施設の消毒作業を進めたことを伝えている。しかし、朝鮮半島に接近する台風17号の暴風雨で、散布した薬品の効果が薄れる恐れもあり、感染の「南下」を止められるかどうかが焦点、とする。金炫秀(キムヒョンス)・農林畜産食品相は21日、台風により、殺処分した豚を埋めた場所から雨水が流れ出るなどして感染が広がらないよう対策を指示したそうだ。
ワクチン接種をためらい、被害を拡大させているお粗末な我が国。かなり厳しい状況を想定せざるを得ない。
◆及び腰のワクチン接種
同紙(9月21日付)によれば、現行の防疫指針は予防的なワクチン接種を認めておらず、指針の改定を急ぐ一方、製薬会社にはワクチンの増産を求め、感染が集中している地域に限定して接種する方針である。輸出への影響などを懸念してワクチン接種に慎重だった政府の方針は転換されたが、完全制圧に向けた断固たる姿勢とは言いがたい。なぜなら、ワクチン接種の最終判断は各都道府県に丸投げされるからだ。その根底には、ワクチン接種により、「清浄国」から「非清浄国」に格下げされ、輸出が困難になることを恐れる現政権の姿勢が堅固に横たわっている。この期に及んでさえも。
◆非清浄国化を恐れて養豚産業滅ぼす
「おろそかだった国の備え」という見出しは、信濃毎日新聞(9月21日付)の社説。
「接種を求める声は養豚業者や自治体から早い段階で出ていた。ここへ来てどたばたと事を進めるのは、備えをおろそかにしてきた裏返しでもある」「接種地域を限るのは、域外の豚について輸出への影響を避けられる可能性があるからだという。ただ、それで感染拡大を食い止められなければ、また対応が後手に回り、手遅れになる恐れもある」とする。
他方、「豚肉を買うのを控える動きが起きないかも心配だ」としたうえで、豚コレラは人に感染せず、感染した豚肉を食べても人の体に影響はないことを伝えている。加えて我が国では、「1992年まで豚コレラが発生していた。ワクチンも使われていたが、豚肉は当たり前に流通し、食卓に上っていた。その後、接種をなくし、『清浄国』に認定された経緯がある」ことから、風評被害によって養豚農家が大きな打撃を受けないよう、正確な情報を周知させることを政府、自治体に求めている。
愛媛新聞(9月22日付)も、ワクチン接種について「これ以上の感染拡大を防ぐためにはやむを得ない判断」「養豚農家らの不安解消へ大きな一歩だ」としたうえで、「接種による予防と、感染源の撲滅を組み合わせ、収束への道筋を付けなければならない」し、「結果的に後手に回り早期の収束に失敗しており、対応の検証が必要」とする。
そして、「非清浄国」に格下げされれば、豚肉の輸出に支障が出かねないという政府の姿勢に対しては、「輸出量は少なく、国内の生産体制を守る方が優先されよう」と、輸出へのこだわりを批判し、それ以上に心配すべきは「風評被害」と同紙も指摘する。
「ワクチンを接種した地域の豚肉の購入が控えられたり、国産から外国産に切り替えられたりしないために、国による情報周知や啓発が重要」とするとともに、豚コレラが発生した養豚農家の多くが、「休業中の収入確保や従業員の雇用維持に苦しんでいる」ことを取り上げ、行政に対してきめ細かな支援を求めている。
最後に、先述したアフリカ豚コレラの感染が急速に拡大していることから、「日本に上陸すると被害は計り知れない」ので、「水際での侵入防止を徹底」せよと、警鐘を鳴らす。
◆「魂の叫び」と「空っぽの言葉」
「人々は困窮し、死にひんし、生態系は壊れる。私たちは絶滅を前にしている。なのに、あなたがたはお金と、永続的経済成長という『おとぎ話』を語っている。よくもそんなことが!」。目に涙を浮かべ、怒りで小さな体を震わせるスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏(16)の叫びに、23日米ニューヨークで行われた国連気候行動サミット会場の国連本部総会ホールが静まりかえったことを、25日の各紙が一面で報じている。
並記することすらグレタ氏には失礼であるが、小泉進次郎環境相は22日に同地で開かれた環境保護団体のイベントで「気候変動のような大きな問題に取り組む際には『楽しく』『格好良く』『セクシーで』なければならない」などと述べた。とりわけ「セクシー」発言の真意を記者団に問われ「説明すること自体がセクシーじゃない。やぼな説明は要らない」と、詳しい説明を避けたことを各紙が伝えている。詳しい説明を避けたのではない。何にも考えていないから語れないだけのこと。グレタ氏の言葉を借りるならば、「空っぽの言葉」。環境問題への世界的な取り組みに敬意を払わない、バカ政治屋ならではの戯言である。
類は友を呼ぶ。自民党の世耕弘成参院幹事長はこの件に関連して、小泉氏について「政府を代表する立場で今後もきっちり発信していただきたい」と述べたそうだ。
我が国の養豚産業が立ち直るためには「非清浄国化」は避けられない。そして我が国がまともな国になるためには、我が国が世界に冠たる「非正常国」であることに、人びとが気づき、行動を起こさなければならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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