【澁澤栄・精密農業とは】精密農業とグローバルGAP 法令遵守の重要な道具2019年10月1日
1997年6月、英国のワールビク大学で行われた「第1回精密農業ヨーロッパ会議(ECPA)」に出席した。会場の掲示板に手書きのアドホックな(思いつきの)会合案内があり、参加してみるとデータ共有についての集まり。話題の一つが農場マネジメントに関するデータ規格だった。その後、BSE問題でヨーロッパが騒然とするなか、農場管理規準であるGLOBALG.A.P.(以下グローバルGAPとよぶ)が登場。2015年、ベルギーのカトリック大学ルーベン校の名誉教授であるジョセ・デ・マエデマーカーを招聘し、ヨーロッパにおける精密農業とグローバルGAP(※)の取り組み例を解説してもらった。その要旨を紹介する。
◆精密農業とGAP
精密農業はGAPと思考法を共有しており、法令遵守の重要な道具である。遵法の証拠として生産活動を記録することになる。精密農業は、正確な情報(土壌、前作物の処理、気候、品種、投入量)にもとづき的確な農作業を実行するもので、農作業の評価規準はGAPと共通する。
当初、ベルギーでは、クローバルGAP認証を取得した農家が、安全性をセールスポイントにして農産物を高く販売することができた(図1)。しかし、すぐに市民から安全性で農産物を差別するのはおかしいという苦情が上がり、農民団体も同意して「安全性を差別化に利用するな」という世論が巻き起こった。そして、すべての販売農家がグローバルGAP認証をとり、認証農家の農産物しか市場に供給されなくなった。農産物は安全が当たり前であり、輸出やブランド化の前提条件になった。この変化におよそ10年かかった。
◆グローバルGAPの考え方と構造
社会の規範に準拠したリスク評価では、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設立されたコーデックス委員会、WTO(世界貿易機関)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)、ヨーロッパ食品法による国際的な食品安全システムの枠組に準拠している。そのため、適正農業規範は食品安全の基礎と考えられる。その哲学は以下の通り。
・包括的なHACCP原理を基礎にした食品安全基準を遵守する。
・化学製品の不適切な使用の制限、残留レベルを遵守する。
・生産活動による自然環境への負荷を最小にする。・農場における雇用者の健康や安全基準の国際レベルを遵守する。
・農場における動物福祉基準の国際レベルを遵守する。
グローバルGAPの認証体系はモジュール形式になっている(図2)。すべての農場に適用される一般規則の遵守は必須項目だ。続いて、対象ごとに作物規準、畜産規準、養殖規準があり、さらに具体的な作物や畜種あるいは魚種ごとに管理項目が整理されている。
例えば、果菜類の認証をとる場合、上位の作物規準と一般規則の理解が必要になる。作物規準の枠内であれば、認証作物を拡大するには、対象作物のみを追加認証すればよい。
◆GAPトレーサビリティ
トレーサビリティとは、直前の出荷者と直後の買い手が危害農産物をいち早く挟み撃ちで排除する仕組み(リコール)。排除責任者と排除方法の確定が必須である。
GPS(汎地球測位システム)付き農業機械を利用した精密農法(precision farming)は、すべての農作業に位置と時間を付加する。例えば、作物規準3番目の「ほ場履歴と管理」は(図3)、作物栽培のトレーサビリティを実現する。施肥機械の自動制御は、正確な施肥量を適正な時期に適切な方法で実行するという5番目の要求事項を満たす。
収穫ほ場のGPS座標が出荷伝票に記録されると、小売や消費者は生産物の素性(地域、農場主、ほ場、ほ場内の位置、処理)を知ることができる。また、農業データ連携システムは、長期的には熟練者の知識やモデルを洗練させ、当年の結果予測や過去の同種事例を探索。また、履歴のトレーサビリティ情報を価値あるものにする。
※GAPはGood Agricultural Practiceの略。適正な農作業を意味する。GAP Standardは適正な農作業の規準、適正農業規範という。GLOBALG.A.P.は商標名、国際標準のGAP Standardを提供している。
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東京農工大学特任教授 澁澤栄氏のコラム【精密農業(スマート農業)とは?】
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