【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】【日米貿易協定はWTO違反】国会承認は違法2019年10月3日
◆戦後の世界の努力を水泡に帰す犯罪行為=国会承認はあり得ない
歴史を振り返ると、WTOの前身であるガットは、米国の1929年大恐慌を発端とする世界のブロック経済化と関税引上げの報復合戦などの保護主義化が最終的に第二次世界大戦の勃発につながった反省から戦後の1947年に締結された。つまり、WTOの基本精神は、戦争の反省から生まれた無差別原則にある。
こうした経緯も踏まえれば、過去に例のないような明白なWTO違反協定をトランプ大統領の選挙対策のために日本が加担して強行することの代償は計り知れない。戦後築き上げてきた世界の貿易秩序を破壊する、あまりにも愚かな行為である。「自動車に25%関税をかけられるよりはましだろう」というWTO違反の「犯罪行為」に脅され、完成車と部品の関税撤廃を反故にされ、余剰トウモロコシ275万トン(トン2万円として550億円)まで買わされるという「犯罪者に金を払って許しを請う」(細川昌彦・中部大学教授)ような「失うだけの交渉」を展開したあげく、日米で更なるWTO違反に手を染めてしまった。戦後の世界の努力を水泡に帰す犯罪行為で、国会承認はあり得ない。
◆消えたTAG
「日米FTAを避けるためにTPP11をやる必要がある」と国民に説明したのはウソで、TPP11と日米FTAは最初からセットだった。やらないと言った日米FTA交渉を開始してしまったことをごまかすため、日米共同声明の日本語訳を改ざん、ペンス副大統領演説まで改ざんして、「これはFTAでなくTAG(物品貿易協定)だ」と言い張った。そして、それが、その場しのぎのごまかしだったことは、もう、TAGという言葉が誰からも出てこなくなったことで明白だ。
◆FTAに向けての中間協定?
そして、今度は、「FTAに向けての中間協定」に位置づけることでWTO違反の「つまみ食い」協定を強行しようとしている。「浅知恵、極まれり」である。WTOは特定の国・地域間での特恵的貿易ルールの締結を基本的に禁止しているが、ガット24条は「実質上すべての貿易」(厳密な定義はないが、貿易額の9割が目安とされている)が含まれることを条件として例外的にFTAを認めている。
◆貿易額の6割に満たない、過去に例のないWTO違反協定=米側で92%、日本側で84%は虚偽
米国は日本の対米輸出の約4割を占める自動車とその部品の関税撤廃をしなかった。さらに、そもそも、米国議会承認を必要としない大統領権限の行政協定に含めることができるのは、関税が5%未満の品目の関税撤廃のみである。5%以上の関税は半分の関税までの引下げが限度とされている(米国のライト・トラックの関税25%は12.5%が限度)。さらに、ウルグアイ・ラウンド(UR)合意時に米国がセンシティブ農産物に指定した牛肉、乳製品、砂糖、一部の青果物(レタス、トマト、グレープフルーツなど)は含められない。これらに該当する除外品目を加えると、この「つまみ食い」協定は、「実質上すべての貿易」基準(概ね9割)をはるかに下回り、貿易額の6割に満たないような、過去に例のないWTO違反協定になる。米側で92%、日本側で84%の関税撤廃という日本政府発表は虚偽である。
◆中間協定の要件は満たしていない
こうした協定でも容認される条件は、WTO上認められる「中間協定」と位置付けられる場合であり、そのためには、「妥当な期間内に関税同盟を組織し、又は自由貿易地域を設定するための計画及び日程を含むものでなければならない」が、今回の日米協定は、そのような位置付けにはなっていない。自動車と部品関税についても関税撤廃を明記したと日本側は言うが、具体的スケジュールは示されていない。米国側は「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」(通商代表部のライトハイザー代表)とコメントし、両国の解釈は食い違う。大統領権限での行政協定で可能な関税撤廃分野の制約から、そもそも、それを満たすこともできない(ライト・トラックの関税撤廃は含められない)。
FTAでないと言い張っておいて、今度は、FTAに辿り着くまでの中間協定だと言って、WTO違反をかわそうとしているが、これはWTO上のFTAに向けた中間協定とは認められない。米国の知り合いの弁護士も「通商代表部はfull FTAに向けてのアーリー・ハーベストと言っているが、本当にそのつもりなのか(次のステップを計画しているのか)、WTO違反の批判をかわすための方便なのか? 」と指摘している(USTR is promoting the deal that was announced at the UN as an "early harvest" and that now they will shift unto a phase two of negotiating for a full FTA. However, whether that is the real plan or that is what is being said to try to put off challenges of this mini-deal as violating GATT Art XXIV remains unclear.)
何度も指摘してきたが、ACFTA(=ASEANと中国の包括的経済協力枠組み協定)は、包括的協定の一環として、まず、2002年11月に枠組み協定(いわば箱)をつくり、まず、特定農産物8品目について関税削減(アーリー・ハーベスト)をしてから、物品貿易協定、サービス貿易協定、投資協定と、順次、協定を合意・発効していき、2012年12月に全体の議定書を発効した。
今回の日米協定は、ACFTAのような体裁は全く整っていない。
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