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【熊野孝文・米マーケット情報】中食業界からSBSのマークアップを引き下げ要求2019年10月8日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

 今年度第1回目のSBS入札が9月27日に行われた。結果は2万5000tの輸入枠に対して1万2583tの応札があり、8909tが落札された。

 結果だけ見ると応札した数量も少なければ落札された数量も少ない。輸入枠は一般米が2万2500t、砕精米枠が2500tあり、砕米枠には4766tの応札があり、2500tの枠は埋まったのだが、一般枠は7817tの応札数量で6409tの落札に留まった。なぜ一般枠の応札が低調なのか? 一つには豪州が2年連続の大干ばつに見舞われる可能性があり、豪州米の応札を見送ったところがあることも要因だが、最大の要因は一般枠のマークアップが引き下げられないことにある。マークアップについては以前、いわゆるゲタ問題が取り沙汰されてから、言い方は妙だが純粋に売買差益が徴収されようになった。従って買い手の米卸等が落札価格より安くキックバック等で利益を得る手段は閉ざされた。

 第1回目の一般枠のマークアップは買入価格が平均t11万0982円(税別以下同)で売渡価格が17万2128円なので、マークアップは1tで6万1146円になる。この額が国の儲けになる。1kgに直すと61円で、前年度来、この1kg61円のマークアップは岩盤のようになっている。輸入商社が事前にこのマークアップ額を知ることは出来ないが、札を入れてみて「農水省がマークアップを上げもしないが下げもしない」という意志が明確に伝わって来るという。

 このマークアップが輸入商社や卸のSBS応札意欲を削いでいる最大の要因になっている。売却価格はkg172円程度なので、国産米価格に比べると大幅に安く、十分に国内で売れる価格ではないかと思われるが、実際にはこの価格は港渡し価格でそれから実需者の手に渡るまでは、運賃やクリーニングなど調整費用の諸経費が掛かり、1kg220円から230円になってしまうという。その意味では、マークアップは国産米の価格に影響が出ないようにするために農水省が熟考した額とも言えなくもない。逆説的だがもしマークアップが61円でも儲かるとなったら2万2500tの枠は直ぐ埋まるはずである。

 そうした第1回目SBS輸入入札の結果を受けて、農水省にマークアップを引き下げろと要請しに行った組織がある。中食業界団体等で組織される国産米使用推進団体協議会である。国産米使用を謳う団体が、なぜ外米輸入制度に口を出すのか? それにはちゃんとした言い分がある。これまで4年連続して国産米が値上がり、kg当たりではおおよそ20円のアップで、この値上がり分を吸収すべく、コメの代替品として雑穀を混ぜてみたり、量を減らしたりでコスト低減策を取って来たが、すでに限界で「断腸の思いで外国産米を使用しなければならないところも出ている。しかしその外国産米も価格が下がらない。その最大の原因はマークアップが高いことにある」という訴え。さらに付け加えて元年産が値上がりすると5年連続になるが、これは農水省が政府備蓄米入札で価格を引き上げたうえ再三にわたり買入期限を延長したことで「生産者に対して米価は上がるものだという誤ったメッセージを送ったことにある」と批判した。これまで様々なコスト低減策を取って来たが、5年連続となればコメを主要原料とする中食業界そのものが衰退してしまうと強い危機感を持っている。この組織は業界のコメ使用状況等詳細なデータを取揃え、主張に説得力があり、これまでSBS制度以外でも政策の見直しを訴えてきたのだが、残念ながら農水省からは毎度ゼロ回答である。今回もマークアップの算定根拠を求めたのだが、これに対しても「SBS要領に則て決める」とだけの回答。

 ただ、一点だけ農水省と意見の一致を見たことがある。それはコメの消費拡大で、中食業界はコメの需要分野でコメの消費拡大に貢献しており「コメの価格が上がることは中食業界の成長を止めることになる」と窮状を訴えたのに対して、政策統括官が「一緒に協力してコメの消費拡大策を検討しましょう」と答えた。論旨がズレている極みも無きにしも非ずだが、消費拡大には両者とも異論がない事だけは間違いない。

 それにしてもマークアップ引き下げは政治的にも最もハードルが高い事案だとわかっていながら、なぜ敢えてこうした要請を中食業界は行ったのか? 出席者の一人がアメリカとの交渉は「250万tのトウモロコシ輸入で7万tのコメ輸入枠をなしにしたという事ですね」と言っていたので、ひょっとすると本気で7万tのアメリカ分無税枠が設定されると信じていたのかもしれない。


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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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