【小松泰信・地方の眼力】大災害時代を生きてやる2019年10月16日
東京新聞(10月8日付)によれば、経団連が今年も会員企業に政治献金を呼びかける方針を決めたとのこと。自公政権の政策への評価を基に、会員企業に文書で「社会貢献の一環としての政治寄付」として呼び掛けるそうだ。政治献金を社会貢献、といってはばからない厚顔無恥さにただただ驚くばかり。これを延長していけば、関西電力をめぐる事件は、「やや行き過ぎた地域社会貢献でした」で済ますことさえ出来るはず。自公政権にくれる金があるのなら、災害救援募金への寄付を勧める。450兆円に迫る内部留保をため込む大企業なら、かなりの貢献が期待される。もちろん、自公政権だって恥ずかしくて受け取れませんよネ!
◆家無き人と思慮無き人
毎日新聞(10月14日付)の27面に看過できない記事ふたつ。
ひとつは、東京都台東区が路上生活者など区内の住所を提示できない人を避難所で受け入れていなかったこと。
台東区は、12日に区立小学校の避難所を訪れた路上生活者2人に対し、「住所がない」という理由で受け入れを拒否した。受け入れを断られた男性(64)は脳梗塞(こうそく)を患い、会話が不自由な状態で、結局JR上野駅周辺の建物の陰で傘を差して風雨をしのいだとのこと。
区災害対策課は「区民が今後来るかもしれない状況だったため、区民を優先した」が、「結果として支援から漏れてしまったのは事実で、今回の対応に多くの批判もいただいている。住所のない人の命をどう守るか。他の自治体などを参考に支援のあり方を検討していきたい」と話す。
その後、区の対応に批判の声があがる中、区長は15日午後、「対応が不十分であり、避難できなかった方がおられた事につきましては、大変申し訳ありませんでした」と謝罪し、災害時の対応を検討する組織を新たに立ち上げ、「全ての方を援助する方策について検討を進めていきます」と発表した。ネット上にはさまざまな意見が飛び交っているが、避難所とは路上生活者に限らず、命に危険が及ぶ緊急時に「人」を守るべき場所であることを忘れるべきではない。
もうひとつが、自民党の二階俊博幹事長が党本部での緊急役員会で、「予測に比べると、まずまずに収まった感じですが、それでも相当の被害が広範に及んでいる」と述べたこと。もちろん問題なのは、"まずまずに収まった"という認識と、それを簡単に言葉にしてしまう思慮の無さ。
二階氏が役員会後、記者団に「日本がひっくり返るような災害と比べたら、という意味で、1人亡くなっても大変なことだ」と釈明。この場面をニュースで見たが、二階氏の後ろに二階派の今村雅弘元復興相が立っていた。二人のすっとぼけた顔を見たら、これはギャグか、ショートコントかと思わず苦笑した。今村氏といえば、二階派のパーティーで東日本大震災の被害に関して「まだ東北で、あっちの方だったから良かった。首都圏に近かったりすると、莫大な、甚大な額になった」と述べ、事実上の更迭処分となった方。その部下の不始末を学習できない上司。その揃い踏みは、笑うに笑えないツーショット。
ところが各方面から出された批判の多さに恐れをなしたのか、15日に党本部で記者団に「被災地の皆さまに誤解を与えたとすれば、表現が不適切だった」と述べ、発言を撤回。だれも誤解していないので、撤回無用。辞任、辞職を求めます。
◆危機感あふれる地方紙
10月14日の地方紙の多くが、社説等で災害問題を取り上げている。(文中の強調文字は小松)
「気象の異変は台風に限らない。豪雨による災害もこのところ毎年のように起きている。多くの犠牲者を出した昨年の西日本豪雨や、一昨年の九州北部の豪雨は記憶に新しい。......日本は地震が集中する国でもある。水害にせよ地震にせよ、多発する大災害は住民の命を脅かし、生活に大きな打撃を与える。身近な災害の危険を日ごろから住民に周知し、共有できていたか。自治体があらためて点検するとともに、住民も自ら、防災と減災への意識を新たにしたい。疲弊する地方がさらに窮地に追い込まれれば社会はもたない。国が果たすべき責任も問われる」(信濃毎日新聞)
「激甚化する災害への対応は、もはや国家的な課題だ。防災対策や災害関連の法律を総合的に見直すことが不可欠だろう。国民の生命・財産を守る設備やシステムを整備し、万が一の際も生活や仕事の再建を継続的に支える仕組みを早急に構築しなければならない。......平時の備えはもちろんだが、災害情報を得たら、的確な行動がすぐに取れるよう心掛けておくことが『災害列島』を生き抜く条件となる」(愛媛新聞)
「一面に広がる泥水の海。テレビ画面に映し出される各地の光景に息をのむ。......近年、災害の『巨大化』『凶暴化』を実感することが多い。『数十年に一度の雨の降り方』といった言葉を頻繁に聞く。......これまで経験したことがないような災害がいつでも起こり得る。その時、どうやって命を守るか。巨大化する災害に応じて『備え』も強化しなければならない」(高知新聞)
「特別警報は『数十年に1度』の甚大な災害が起きる危険性が高い際に発表される。それが毎年のように出る。豪雨災害はいつ、どこで起きても不思議ではない。......台風に伴う災害は、新たな段階に入ったと言うべきだろう。これまでの安全が、これからの安全を保障するわけではない。台風や気象が激化する中で、従来の防災・減災の仕組みを再考する必要があるのではないか。地域での対策や災害情報の発信方法、被害への支援法制などを含め、いま一度見直す時期に来ている」(河北新報)
「私たちはゲリラ豪雨や台風、地震などが頻発する自然災害列島に生きている。温暖化の影響か、被害の規模は次第に深刻さを増しているようだ。その自覚を持ち、防災・減災の取り組みをさらに進めねばならない」(中国新聞)
◆大災害時代のまっただ中
政府の地震調査委員会はマグニチュード8から9の巨大地震が今後30年以内に「70%から80%」の確率で発生すると予測している。国は南海トラフの巨大地震が起きると、最悪の場合、死者は32万人を超え、経済被害も220兆円を超えると想定している。(NHK NEWS WEB 災害列島 命を守る情報サイト、2019年4月8日)
(一社)農業開発研修センターが10月15日に行ったJA共済総合研究会で、講師の岡田知弘氏(地域経済学・京都橘大学教授、京都大学名誉教授)は、「1990年代半ば以降、大規模な震災、水害、風害、雪害、火山災害が相次ぐ」ことから、我が国が「大災害時代」に入ったとする。そのため、「住民の命と基本的人権の尊重、国土及び地球規模での自然環境との共生をいかに図っていくか。これらの重い課題が、国だけでなく、地方自治体関係者、そして主権者である住民につきつけられている」と、語った。
我々は、いつ襲いかかってくるか分からない狼の群れにかこまれている。だからといって、危機意識を煽って、どさくさ紛れに、悪名高き「緊急事態条項」を潜り込ませた改憲議論に与すべきではない。何せ、出してくるのが最大の国難男だから。
「地方の眼力」なめんなよ
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