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【熊野孝文・米マーケット情報】炊飯器で巻き返しを図るガス会社の商魂2019年11月12日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

 先週、東京と横浜でコメに関する2つの催しがあった。東京は新潟県村山市が主催した食材のプレゼンテーションで、横浜はお米の伝道師が講師を務めた外食店の料理人を対象としたおこめ講座。内容は全く違うのだが、一つだけ共通することがあった。共通することに触れる前に両方ともなかなか充実した内容であったので、まずそれぞれの催しの概要を紹介したい。

 村上市は地元の食材を首都圏の外食やホテルなどプロの料理人に知ってもらうべく毎年この時期に開催しているもので、今回で5回目を迎える。会場にはそうしたプロの料理人の他、料理雑誌の編集者などが参加した中、主催者を代表して村上市の副市長が挨拶に立ち、村上市は平成20年に合併、人口は5万9000人だが面積は新潟県で最も広く8.3%を占め、自然が豊かで岩船コシヒカリや鮭、清酒など誇れる食材が豊富であり、自身がコメ作りの生産法人の代表も務めていたことから今回紹介する農水産畜産物の生産者は仲間であると述べ、動画でフードリポーターが村上市の食材や料理を紹介した後、9名の生産者が自社の食材の特徴をプレゼンした。

 また、会場でホテルの総料理長が村上市の食材を使った3つの料理を実演して参加者に提供した。そのなかの一つに農業生産法人がコメを原料にして製造しているスティックこめんぼうを使った「ブロッコリーのスープ『こめんぼう』を浮かせて」という料理があった。スティックこめんぼうとはどんなものかと言うと、きりたんぽをイメージしてもらえれば良いが、それを輪切りにして少し火を入れてブロッコリーで作ったスープの中に入れて食べるというフランス料理風のメニューで、一流のシェフが作っただけあってコメの加工品でもこうした食べ方があるのかと感心するほど美味であった。

◇    ◇

 横浜市の講演会では、お米の伝道師が、コメの食味について品種や品質、搗精方法によっても違って来るとし、スライドで大きくイラスト化した米粒の構造を示し、栄養と旨味が多いのは澱粉層と糠層の間の亜湖粉層でこれを残すようにすることが精米工程で大事で、自社ではコメの状態を見ながら精米しているとした。
 コメの劣化を抑える保管方法や洗米方法を自ら実演して、軽く研ぐことや笊あげしたままにしておかないことなど、ご飯を美味しく炊く方法を伝授した。特に強調されたのがそのメニューに合うコメをどう選ぶかで、カレー用にブレンドしたコメやたかたのゆめ、つきあかりといったあまりメジャーではないコメを炊飯しておにぎりや丼、白ご飯にして提供、参加者全員が試食して、香り、硬さなど8項目を5点満点採点する「お米の通知表」を作成、コメの違いによるメニューの合わせ方を体感した。
 また、自社で鮨店の要望に応えてブレンドしているコメは、冷凍米飯向けに使用されている一般にはなじみの薄いコメを使っていることなどを紹介、外食店が求めるならその店でだけ食べられる「唯一のコメ」も出来るとした。

 ここまでが先週開催されたコメに関する催しの概要だが、何が共通しているかというと会場に使われたのは両方とも大手ガス販売会社の厨房であったことだ。なぜガス会社がコメの催しに会場を提供しているのかというと、一つにはガス炊飯器を売りたいがためである。以前この欄でも触れたが、炊飯器を持っていない若い女性が増え、電気炊飯器の販売台数が減っているとはいえ、それでも毎年540万台から550万台は売れている。
 これに対してガス炊飯器は20万台程度で、今や炊飯器と言えばIHかヒーターで熱源は電気が主流。ただし、業務用に限ってはガス炊飯器が健闘している。電気炊飯器と何が違うのかというと、最大の違いは熱量で、大きな炊飯器であれば時間9800Calというものさえある。会場で「やっぱりガスで炊いたご飯は美味しいですね」とリップサービスしてもらって来たガス会社の商品カタログには、炊飯器の紹介だけで20ページも使われていた。
 その中に以下の文言が記されていた。「おいしいご飯はやっぱりガス。パワフルな火力でコメ一粒一粒をしっかり加熱。粘りと旨味のある美味しいご飯が炊けます」。美味しい理由は「無数の煮沸泡がコメを躍らせ、しっかり加温」「沸騰までの10分間でアルファ化しやすい状態にして、ご飯の旨味を引き出します」。ガス炊飯器を作っているメーカー商品の中にはおかゆモードが付いているものもある。カタログには「銘柄米炊き」の商品は出ていなかったが、そのうち圧倒的火力を活かして、どんな品質のコメでもふっくらと炊きあげますというガス炊飯器が出て来るかもしれない。


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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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