【小松泰信・地方の眼力】石木ダム建設はおやめなさい2019年11月13日
「知事、私たちの声が聞こえませんか? 私たちは、ただ普通の暮らしを続けたいだけなんです」
これは「石木ダムを断念させる全国集会in川棚」(川棚町公会堂、11月17日13時30分開会)を伝えるパンフレットに記された、長崎県川棚町川原(こうばる)地区に住む人々の心からの言葉。集会の翌日が家屋明け渡し期限。
◆知事! あなたの裁量でダム建設は止められるそうです
少し早いが、この集会における集会宣言(案)を抜粋して紹介する。
「今年9月19日、こうばるの13世帯の土地は全て強制収用されてしまった。しかし、人々はこれまで通りそこで暮らし、田畑では作物が実っている。
土地収用法を根拠としても、60人近い人々を力づくで追い出すことなど人道上できるわけがない。しかし、法的には不法占拠という状態におかれ、住民は様々な不利益を被ることになる。また、建設工事への抗議行動は9年以上に及び、心身ともに疲労の蓄積は限界を超えている。これほど住民を苦しめる事業が公共事業と言えるだろうか。しかも、ダムの必要性は既に失われているというのに。
石木ダム計画において県は、最初から『石木ダムありき』でダムを造らんがための推進姿勢であった。佐世保市も県の言いなりで、長年漏水改善等に怠慢なうえ、市の水需要予測は時代を見据えない過大な計画の継続であり、まったく根拠のない『石木ダムありきの数合わせ』をやってきた。
私たちは、この集会で石木ダムは治水利水の両面で全く不要であり、知事の裁量で見直しすればダムは止まることを改めて学んだ。私たちは、一日も早く長崎県と佐世保市に石木ダム建設を断念させ、こうばるの皆さんの人権回復を実現させたいと願っている。」
この集会では、「知事の裁量で見直しすればダムは止まる」と題して、嘉田由紀子氏(参議院議員、元滋賀県知事)が講演する。
◆岩見県土木部長! イヤミじゃないけど「グリーンインフラ」をご存じですか
西日本新聞(11月12日付、長崎北版)によれば、当コラムが前回取り上げた、頻発する豪雨災害をダム建設の「追い風」とする県河川課長の発言に関連して、ダム反対派住民らが11日に県庁で抗議した。「責任を課長に負わせ、逃れようとしている」として中村法道知事の謝罪を要請したが、応対した土木部次長は「(対応は)十分だ」と語っている。ちなみに、更迭されてもおかしくない暴言課長、発言を撤回すれども謝罪なし。自らが吹かせた向かい風が収まるのを、ただただお待ちのようだ。
彼の上司である県土木部長岩見洋一氏は国土交通省からの出向者。その省が、実に興味深い戦略の遂行に着手していることを岩見氏はご存じないのだろうか。
「インフラは、暮しや産業を支える社会基盤だ。成長期にはダムや道路などが主流だった」で始まる、日本農業新聞(11月10日付)の論説は、今注目されている「グリーンインフラ」を取り上げている。
国土交通省総合政策局環境政策課による資料「『グリーンインフラ推進戦略』について」(2019年10月9日)では、グリーンインフラを「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と、定義している。
論説は、「自然や農業の持つ多面的な機能を社会や国土づくりに生かす取り組み」で、持続可能な成熟社会づくりの新たな手法と位置付け、「コンクリートからグリーンへ。今、インフラの概念が大きく変わろうとしている」と、期待を込めて伝えている。
欧米では1990年代後半から進めてきたが、我が国では2015年の国土形成計画で初めて取り上げたとのこと。そして今年7月に先述した「グリーンインフラ推進戦略」を国交省が策定した。
そこに描かれているのは、「農業の多面的機能そのもの」で「『農のある街づくり』『自然と共生する社会』と言い換えてもいい。国連が定めた『持続可能な開発目標』(SDGs)とも重なる」と、評価する。
さらに国交省の担当者が、グリーンインフラを「これからの国づくりの一丁目一番地」と位置付けていることを紹介し、「地域資源とそれを生かすノウハウ、人的ネットワークを持つJAの役割に期待する」と、論説を締めている。
これからは、コンクリートではなくグリーンが国づくりの土台であることを、ダム推進派は謙虚に学ぶべきである。
毎日新聞(11月10日付)において藻谷浩介氏(日本総合研究所主席研究員)も、今年の豪雨による浸水被害を取り上げ、「お金をかけるべきはダムの新設ではなく、上流での山林の手入れと中・下流での遊水地機能の整備回復だ。前者には数十年、後者には100年以上かかるかもしれない。だが今から地ならしを始めなければ、何も進展しない。人口が半減し、ダムの老朽化が各地で深刻な問題となるであろう未来に向け、治水哲学の根本を転換させるときである。できることには今日手を付ける。すぐにはできないことがあれば、仮に100年かかることであっても、今日から地ならしを始める。それが未来世代に向けての、現役世代の責任ではないだろうか」と、グリーンインフラの整備を提言している。
◆農協は自民党で、推進派。いっちょん好かん
当コラムも11月10日に現地を訪ね、地元住民から話を伺った。集まっていただいた女性たちには、「この3年間は毎日座り込みで、病院にもなかなか行けない」「知事をはじめとする建設推進派は、私たちが死ぬのを待っている」「(水の供給先である)佐世保市民でさえ、水は足りている。住んでいる人たちを追い出し、地域を壊してまでダムを造る必要はない、と言って応援に来てくれている」「住み慣れたここが一番好き。絶対に出て行かない」などと、泣き笑いで語っていただいた。
JA関係者として悲しむべきことだが、一番盛り上がったのが、JAの姿勢を問うた時だった。
間髪を容れることなく、「農協は自民党」「農協は推進派」「百姓がいじめられて助けて欲しい時に、いじめる側に付いている。不思議か~」「農協は、いっちょん好かん(大嫌いです)!」等々の、恨み辛みが次から次に出された。
「農地が我らの命なら 命をかけて戦うぞ 中村県政なにものぞ 我らの前に敵はなし」(石木ダム絶対反対の唄:3番)という歌詞をどう聞く、JA関係者。
掛け替えのない山河や農地、そして組合員の営農と生活を壊すことで入ってくる補償金を当てにしてのダム建設推進ならば、農業協同組合の看板を即刻下ろすべきである。
「地域資源とそれを生かすノウハウ、人的ネットワークを持つJA」であるならば、今からでも反対運動に加わるべきである。
「地方の眼力」なめんなよ
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