【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(158)栄養不良と過体重2019年11月29日
世界的に「太り過ぎ」に対する目は厳しい。WHO(世界保健機構)によれば、標準体重(Normal weight)とされるのはBMIが18.5-24.9であり、25.0-29.9はPre-obesity(前肥満段階)、30.0以上は5ポイントごとにObesity class I/II/III(肥満クラスI/II/III)と分類されている。
肥満指数としてのBMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割れば計算できるため、広く知られている。身長174cm、体重76kgの場合は76kg÷(1.74x1.74)=25.1となる。
先の定義によれば、これで「前肥満段階」と分類される。
それはそのとおりなのだが、人種や性別、食生活や居住環境などの違いもあるだろうし、ここまで簡単で良いのかなどと思っていたところ、少し古い研究だが興味深いものを見つけた。2011年の研究だが、日本人35万人(男性16万人、女性19万人)以上のデータを解析している。詳細は、後掲するアドレスを見て頂ければ良いが、これを見ると、どうもWHOのデータとは微妙に異なる結果が示されている。
なお、当該研究の限界として、腹囲やウエスト・ヒップ比などの腹部肥満を評価するデータが無いこと、身長・体重が自己申告に基づくものであること、さらに一時点のBMIでの評価に止まることということを述べた上で、中高年の日本人にとって死亡リスクが最も低くなるBMIは、21-27の範囲であるとの結論を示している。https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2830.html
まあ、そうなのだろうなというのが素直な感想である。この研究によれば男性の場合など25.0-26.9あたりが最も低いため、筆者などはすぐに気を緩めてしまいそうだ。それでも全世界に共通の指標としてわかりやすく提示するためには冒頭のようなものにならざるを得ないのであろう。
ところで、毎年秋になると、FAO/WHOが世界のフード・セキュリティと栄養状態に関する報告書を公表する。2019年版を見ると、いくつかの興味深いポイントがある。
第1に、1990-92年当時、世界には約10億人、世界人口の23.3%(以下、同じ)と推定された栄養不良人口は、その後15年ほどは着実に減少し2015年には7億8540万人(10.6%)となったが、近年は再び増加に転じ、2018年には8億2160万人(10.8%)になっている。特に中央アフリカ、東アフリカでの増加が著しい。
確か、SDGsの第2項ではZero Hunger(空腹ゼロ)を2030年としていたはずだ。現在のペースでは目標達成には相当の困難が伴いそうだ。
第2に、過体重(overweight)と肥満(obesity)の数字だが、5歳未満の世界の子供達6億7800万人のうち4千万人(5.9%)、5-9歳の6億3800万人のうち1億3100万人(20.6%)、そして10-19歳の12億人のうち2億700万人(17.3%)が過体重と報告されている。さらに、18歳以上の51億人のうち20億人(38.9%)も過体重である。
2000年当時と比較すると、全世代で過体重の割合が増加しているが、とくに5-9歳の過体重人口の増加が著しく、10.3%から18.5%へとほぼ倍増である。今後は学齢期の食生活が一段と重要なものになるであろう。
地域的には南北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアでは18歳以上の半数以上(北米では何と67.5%)が過体重という結果が示されている。アジアの18歳以上における過体重の割合はまだ29.8%だが、これも2000年には19.8%であったことを考えれば、大きく増加している。今後、アジアの食生活が益々欧米化すれば将来的には同じ状況に陥ることになる可能性が高い。
最後に、現在76億人を超える世界人口をこの視点で見ると、栄養不良人口が8億人、過体重人口が24億人である。いずれも非常に深刻な問題であることは間違いないが、どうも栄養不良人口の減少よりも過体重の増加の方が、明らかにペースが速い。世界は何ともいびつな形になりつつある。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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