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【坂本進一郎・ムラの角から】第26回 「小農の権利宣言」――世界規模での農政大転換―2019年12月5日

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【坂本進一郎】

(1)小農の権利宣言(小農宣言)の内容

 小農宣言は昨年末の国連総会初め、昨年(2018年)12月8日賛成多数(賛成121、反対8、棄権54)で採択された(小農宣言の正式名は「小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言」)。しかし日本はアメリカの顔色を見て棄権に回った。これでは日本の主体性が問われる。また日本国内は「軽農」思想に汚染されたのか小農宣言の反応は鈍かった。
 宣言文は前文及び28条の条約からなっており、全文を紹介するのは不可能なので、内容をかいつまんで紹介してみたい。

 それでは国連総会ではなにを宣言したのか。その特徴は「小農」(「小規模農民」)のほかに対象範囲を広げ「農村で働く人」も加えたことである。この結果、土地なし農民だけでなく農村部の非農家世帯、例えば漁労者、伝統工芸者、その他の農村部に暮らす生業者も対象範囲内に入った。対象内にはいればどうなるのか。基本的人権をはじめとして、思想表現の自由、協同組合を含めた結社の自由などが保護されることになっている(『国連/家族農業の10年と小農の権利宣言』)。
 というよりこの10年なぜ小農が見直され始めたのか。二つ理由があると思う。

 一つは、「家族農業なければ人類の未来は暗し」と巷間言われているように、今まで家族農業は多国籍化した農業に踏みにじられてきた。しかし今家族農業は世界食糧の80%を生産している。それゆえこのまま家族農業を潰していけば地球の未来の食料調達は危うい。事実2007から2008年に起きた国際価格急騰は農地への投機を促し、世界を混乱に巻き込んだ。
 そこで小農を守ろうという機運になってきた。この点では、小農宣言を採択させたのは、ジャカルタに本部のある世界的小農運動のビア・カンぺシーナであり、ビア・カンぺシーナは小農宣言を邪魔するアメリカ多国籍企業と戦いの末国連採択にこぎつけたのであった(詳細後述)。
 小農が見直された二つ目の理由は、資本(企業)の野放図な活動は地球の資源を食い潰し持続可能な社会の建設を不可能にするであろう。世界の人々はそれを嫌いビア・カンペシーナに結集したのであろう。ただ宣言は各国への勧告で法的拘束力を持たない。

 しかし私はビア・カンペシーナの理論と実践には感服する。農民の人権を高らかに宣言したのは初めてだ。日本の憲法でも農業をする権利は明示されていない。そこで三里塚の市東さんの農地取り上げ反対運動では、農民の人権を憲法に明示するよう運動している。ビア・カンペシーナの運動といい三里塚の運動といい、闘争の中から新しい文化が芽生えるのを見ることは痛快だ。特にビア・カンペシーナは世界の農政を大転換させる力を持っていることに感服する。

(2)小農とは

 農業は生活と生産が一体である。その裏返しとして「農業には他人の資本はいらない」のである」(守田志郎『日本の村』137頁)。さらにその理由を尋ねるに、農業は生活そのものを抱えているため資本はいらないのである。資本は農業に入り込めないからといってもいい。守田はさらに言う。
 「農耕の大きさにかかわりなく、私は農家がすべて小農だ」というのである。それ故「アメリカの農業は完全に企業化されていると間違って報告する人がいるが、これは大変な誤りだ」と。もし企業的農業なら小農をやめていなければならないからである。
 そこで小農だが家族農業で頑張っている農家を紹介しよう。ランドルフ・ノドランドという人だ。

 彼とは1991年のブリュッセル10万人デモの時知りあった。その翌年彼を大曲に招いて集会を開いた。彼はアメリカ中西部でカナダと国境を接するノースダコダで自作地350haと不在地主からの借地900haで農業を営んでいる。彼は全米の家族連盟の会長でもある。彼の農場は地域の平均から見てそれほど大きくはないと彼は言う。むしろ農家の収支は窮屈だと彼は言う。20歳代の娘一人と20歳代の息子3人おり、息子1人が近くの町で務めるかたわら夜や週末の勤務の空いた時間に農場の手伝いをしている。妻も家計を償うため町の病院で働いている。アメリカの農民またはその家族の60%が生活のため働いている。
 「私たちは自分たちの農場、家、そして仕事を守るため二つの仕事を持つことを余儀なくされています。今農民が次々この町を去っていき町は寂れています。農民たちは自分で働いた金で生き残っているのでなく、資金を借りて生き残っているのです。自由貿易は大企業だけ利しています。公正な貿易を期待して今日の話を終わります」と結んだ。

(3)アメリカ発多国籍企業(アメリカ政府)とビア・カンペシーナの闘い

 ビア・カンペシーナとアメリカは犬猿の仲とはいかないにせよ、地球に暮らす人々をどちらが多数派工作で引き付けるか否かの争いの間柄にあった。アメリカは自国の余剰農産物のはけ口として世界の市場をアメリカ一極で支配したいと思っている。これに対してビア・カンペシーナの方は、多くの農民は普通の生活を送りたいと思っている。その多数派工作のキーワードは「食料安保」である。だが、アメリカにとって各国に対して食料安保を認めれば、各国は好きなように食料を調達し、アメリカが日本を農産物の輸入国にしたように余剰農産物のはけ口にしようという目論見が頓挫してしまう。

 私は20年前ローマで開かれた「5年後会合」・NGOの部出席のためローマに派遣された。このときアメリカは遺伝子組み換えの会合を別の会場で強引に開いたのを見た。この時の宣言文は、食料主権の文言は入らず逆に「自由貿易」を強調した。
 あれから20年。飢餓は「開発」が遅れたせいでなく、農民の「人権」がおざなりにされたからだという考えが人々の間に、浸透した。またインドネシア・ビアカンペシーナにヘンリーサラギという優秀な指導者が現れ飢餓撲滅の処方箋を書いた。これらの要因が重なって「食料主権」の考えは浸透してきた。

  ×  ×  ×

 紙幅がないので、「家族農業は持続可能な社会へ移行の図るためのキイーアクターとなった」(『国連・家族農業の10年』『小農の権利宣言』)ということを、予告して終わりにしたい。

 最後に食料安保、自給自足は世界の潮流になってきた。アメリカにおべっかを使う安倍政権の「官邸農政」は完全に時代遅れになった。今後は農政を農民に寄り添ったものに改めるべきである。


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