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【小松泰信・地方の眼力】埋没しない、させない、諦めない2019年12月11日

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【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

 12月10日、政府は、反社会的勢力の定義について「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定した。驚きはしない、絶望的な気持ちを押し殺し、ただただ軽蔑するのみ。そもそも、反社政権に自分自身を定義することはできない相談。彼らの本音は、「安倍族とそれに尻尾を振る組織や人以外」が反社勢力ということだろう。自分らに不都合な用語を、速やかに勝手に解釈し閣議決定する。これが本当の「反社」神経。

◆涙の訴え、駄馬の耳に念仏

地方の眼力・本文用画像(小松泰信先生) 「テレメンタリー」は、ABCテレビ・テレビ朝日系列の全国24社が競作するドキュメンタリー番組。12月8日早朝に放送されたのは、長崎文化放送が制作した「はるなの故郷~ダムの里に生まれて~」。ダムとはこれまでも取り上げてきた長崎県川棚町に建設されようとしている石木ダムのこと。はるなとは、ダム建設に反対する松本家の長女晏奈(はるな)さん(17)。故郷と家を奪われる不安の中、ひたむきに青春を送る彼女に焦点を当て、公共事業と個人の権利のはざまで揺れる人々の思いに迫る、グッとくる内容であった。
 9月19日、反対する人たちと一緒に長崎県庁を訪れた彼女は、「都会では味わうことができないことが川原(こうばる)では日常的に行われています」「思い出がたくさん詰まった川原の自然や風景が大好きです。ふるさと川原が奪われるのは絶対にいやです。帰る場所がなくなってしまうなんて考えたくもありません」と、涙ながらに訴えた。そして、「人口が減っているのに水が足りないというのは私には理解できません。きちんと説明すべきです。不要なダムのために私たちの家や土地を奪うのはおかしいと思います。私たちを含む、川原すべてのものを奪わないでください。私たちの思いをどうか受け取ってください」と、中村法道長崎県知事に読み上げた文書を手渡した。
 この訴えから1時間後、中村氏は「これまで用地の提供等で協力いただいた多くの方もいらっしゃるわけですので、それぞれの方々の思いを大切にしながら、事業全体を進めていく必要がある。このことをあらためて感じたところです」と、報道陣に語る。典型的な、駄馬の耳に念仏。

◆石木ダムは科学的に見れば本当にいらないダム

 長崎県があげてきた建設の目的は、「100年に一度の洪水対策」と「佐世保市の水確保」。しかし、専門家はそれを否定する。
 今本博健氏(京都大学名誉教授、河川工学)は、「私はダムの全否定者ではありません。もともと土木の出身ですからダムのアレルギーもない。ただ、ダムができると環境が悪くなることがあるので、できるだけダムは最後の選択肢にしたい」と話す。2013年には全国の大学教授らに呼び掛け、125人で県や佐世保市に「石木ダムは不要」という申し入れをしている。
 「ダムに費やすお金があれば河川改修はずいぶんできる。逆に、ダム計画のおかげで河川改修はなおざりにされている。川棚川(本流)の下流の方では結構改修が進んでいる。長崎県が言う以上に、(川棚の)河川は大丈夫。実は」と語り、人口の減少や節水機器の普及により佐世保市の水需要は予測を下回ることも指摘する。
 よって、「治水にはいらない。利水には全然いらない。石木ダムは科学的に見れば本当にいらないダム」と断言する。

◆埋没費用に埋没するな

 専門家がここまでその必要性を否定するのに、建設を進めようとするのはなぜか。その答えのヒントは、中村知事の「これまで用地の提供等で協力いただいた多くの方もいらっしゃるわけで」と、言うところにある。ダムを建設しないと、これまで投入した資金や労力、あるいは地元住民に強いてきた犠牲、そして半世紀にも及ぶ年月等々が無駄になる。それらを無駄にしないために、とにかく完成させる。そのためには、新たな資金や労力、そして犠牲はやむを得ない、ということである。
 経済学では、「事業や行為に投下した資金・労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ない資金や労力のこと」を「埋没費用(sunk cost)」と言う。ダム建設のように、初期投資が大きく他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなる。だから、やめる決断ができない。ダムに限らず「止まらない大規模公共事業」の一因はこの費用にある。
 「これだけ費用をかけた。8割の住民に地元を離れてもらった。あと2割が出て行ってくれたら......」と考えて、不要なダム建設に向かうのは、埋没費用を増加させるだけではなく、何物にも代えがたい自然と、そこを故郷として平穏に生活している人々の幸せな生活までをもダム底に埋没させるという、取り返しのつかない大罪を犯すこと。
 埋没費用に埋没しない、埋没させないためには、回収不能な費用であることを潔く認め、勇気をもって撤退することである。
 辺野古基地建設も原発も同じ構造。事業をすこしずつでも進めるのは、既成事実を積み重ね、当該費用を大きくし、反対しづらい世論を形成していくためである。このことを見抜き、世論操作には乗らぬこと。深傷を負うだけである。
 なぜ、こんなことができるのか? それは、税金だから。何のためにやるのか? 政治家と役人のメンツを守るために。
 このような状況は石木ダムに限ったことではない。全国でこれまでにも起こったこと、そしてこれからも起こること。我々にできることは、埋没費用に埋没させられぬよう、事業等の是非を見抜く眼力と、だめなものにはだめと言い続ける胆力を鍛えること。
 反対住民らが、国に事業認定取り消しを求めた訴訟において、11月29日に福岡高裁は、「事業による公共の利益は原告らの失われる利益を優越している」と、理解しがたい判断により住民側の請求を棄却した。しかし、住民側は10日、判決を不服として上告した。決して、諦めてはいない。

 
◆反社政権と埋没するのはまっぴらごめんなすって

 毎日新聞(12月11日付)によれば、麻生太郎副総理兼財務相は10日の記者会見で、安倍晋三首相が目指す憲法改正に関し、「自分でやるという覚悟を決めてやらないといけない。(総裁)任期中にできる当てがないなら、対策を考えるのが当たり前ではないか」と述べ、総裁4選を検討すべきだとの考えを示した。また、自民党の二階敏弘幹事長も10日、2021年9月末までの首相の総裁任期中の改憲について「任期中に成し遂げるべく努力をすることは当然だが、かなわない場合は、そのときの政治情勢や国会日程をにらんで対応することが大事だ」と述べ、4選の可能性に含みを残した。
 麻生氏の会見を見たが、親分とでも呼んで欲しそうな、反社政権№2の顔つき目つき。こんな連中に憲法を触らせてはいけないが、お頭の4選の可能性は大。4選なくとも院政を敷くはず。なぜなら、権力を手放したとたんに、安倍族は司直の手にかかるから。もちろん、国民に司直を動かす力があればの話だが。
 「地方の眼力」なめんなよ

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小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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