【近藤康男・TPPから見える風景】あまりに願望・言い訳に過ぎないか!国会答弁2019年12月12日
12月4日午前の参院本会議で日米貿易協定・デジタル貿易協定が批准された。今回の臨時国会では衆院で2回、参院で2回委員会を傍聴する機会があった。協定の分量が少ないこともあり、野党の質問は問題点をほぼ網羅し、適切なものだったとの印象を受けた。その一方で茂木外相以下の政府答弁は、これまでになくお粗末・不誠実で、単なる独りよがりの願望と言い訳以外の何物でもなかった。そして願望の中には、文書・文言も無い口頭約束に留まるものもあり、その裏付けとなる記録は最後まで国会・国民に公表されなかった。
今回のコラムでは、12月4日の最期の外交防衛委員会を傍聴していて特に「願望と言い訳」として気になった政府答弁について触れたい。但し議事録からの引用ではなく、傍聴していての理解に基づき言及したもので、実際の発言の文言ではないことを申し添える。
しかし、通商交渉に際しての政府の戦略欠如と腰の引け方を実に表していると思う。
◆手の内を明かさないのが交渉の鉄則???とは実に空々しい
米国が本格交渉に等しい"対日交渉目的22項目"を議会に通知していることに関連して、では「日本の交渉目的、獲得目標」はあるのか、と問われた茂木外相の答弁は如何?「米国の"22項目"は、優先事項はあるだろうが、米国TPA法に基づく一般的手続きだ」「様々な考えは持っているが、最初から手の内を見せないことが交渉の鉄則だ」と滔々と答弁した。
どうしても護らないといけない事項について、最後の着地点を早計に見せるべきでないのはその通りだ。しかし、この点では18年9月の日米共同声明第5項で日本は「農産品の市場アクセスは過去の経済連携での約束が最大限」、米国は「自動車について自動車産業の製造・雇用の増加を目指す」ことを双方尊重する、としている。つまり、日本は見せてはならないギリギリの防衛ラインを最初から明かし、一方米国は幅広い、青天井の獲得目標をぶつけてきたということだ。最初から勝負は見えていた。
通商交渉は独りよがりではいけない。"政府だけのものではなく、まず国民のもの"だということも言っておきたい。
◆これも空々しい、米国にTPP復帰のインセンティブはある???
米国との2国間での本格交渉をどうするのか? というこれも戦略を問う質問に対しての答弁は、「米国にとってのインセンティブはある。米国にとって、TPPのメリットは日米貿易協定以上にある」との答弁だ。
そして、牛肉を始めとする緊急輸入制限発動(以下SGとする)の基準数量について、「今回の合意はCPTPPに基づくものではなく、従ってCPTPP参加国には別途協議を働きかける必要がある」と答弁した。"米国のTPP復帰の可否"が確定した段階で、日米貿易協定とCPTPPの基準数量の合計をTPP原協定の枠内に納めることについて、「各国は日本のことを理解しているから問題ない」と繰り返していたCPTPP第6条の見直し条項についても距離を置き始めているかのようだ。そして日米貿易協定(付属書ⅠのB節第四款9項(c)とSGに関する交換公文1項(b))では、「2023年度以降の協議で修正となる場合に1本化することになれば"合意するために協議する"」とされているだけで何の保証もない。"右顧左眄して得るもの無し"にならないのか?
そもそも、掟破りのならず者大統領は常に「2国間交渉が米国にとってベストだ」と繰り返し、その通りに実行し、獲得目標を喧伝しつつその多くを獲得してきた。そして日米貿易協定の署名を控えた12月4日にライトハイザ―代表も「包括協定の議論は計画通り20年に取り組む方針」と改めて示した。また、米上院で通商政策を管轄する財政委員会委員長の共和党グラスリ-委員長も「米国農家の大勝利だ。次は包括的な貿易協定だ」と指摘した。
日米貿易協定の審議でも、"桜"と同じような政府答弁が繰り返された臨時国会だった。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【年頭あいさつ 2025】国際協同組合年機に反転 村上光雄 一般社団法人 農協協会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法理念 実現の時 江藤拓 農林水産大臣2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】基本法の具体化に全力 山野徹 全国農業協同組合中央会 代表理事会長2025年1月2日
-
食と農を未来へつなぐ【年頭あいさつ 2025】折原敬一 全国農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】利用者本位の活動基調に 青江伯夫 全国共済農業協同組合連合会 経営管理委員会会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】つながり強化戦略推進 奥和登 農林中央金庫 代表理事理事長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】医療、福祉の充実に一丸 長谷川浩敏 全国厚生農業協同組合連合会 代表理事会長2025年1月2日
-
【年頭あいさつ 2025】『家の光』創刊100周年 JA教育文化活動支援に尽くす 栗原隆政 (一社)家の光協会 代表理事会長2025年1月2日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(2)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(3)2025年1月1日
-
【石破総理 新春インタビュー】政治の大転換期、新たな農業政策へ どう一歩踏み出すか(4)2025年1月1日
-
2025年度 農林水産関係予算 2兆2706億円 前年より20億円増2024年12月27日
-
【特殊報】モモほ場で「モモ果実赤点病」県内で初めて確認 愛知県2024年12月27日
-
【特殊報】ブドウにシタベニハゴロモ 県内の果樹園地で初めて確認 富山県2024年12月27日
-
【注意報】かぼちゃにアブラムシ類 八重山地域で多発 沖縄県2024年12月27日
-
米輸入めぐるウルグアイ・ラウンド(UR)交渉 過度な秘密主義に閣僚も「恥」 1993年外交文書公開2024年12月27日
-
1月の野菜生育状況 さといも以外の価格 平年を上回る見込み 農水省2024年12月27日
-
(416)「温故知新」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月27日
-
東京23区の12月の消費者物価 生鮮食品の前年同月比は2桁増2024年12月27日
-
JA全農あきたがスマート農業研修会 農機・担い手合同は初2024年12月27日