【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(161)高齢化と15年後2019年12月20日
「基幹的農業従事者」という用語がある。農林水産省が実施している農業構造動態調査においては「自営農業に主として従事した世帯員のうち仕事が主の世帯員数」である。人数は3年前の2016年には158.6万人であったが、年々減少し、2019年には140.4万人(▲18.2万人)となっている。
過去3年間で▲18万人、それも農業の中核を担っている人達の減少となればこれは各所に影響が及ぶ。全国至るところで人手不足の声が上がっているが、その本質は単純作業労働者の減少もだが、まさに基幹的農業従事者の減少によるものも多い。そこで、少し統計の数字を紹介しよう。
過去3年間、ほぼ全ての世代で基幹的農業従事者数は毎年減少しているが、唯一増加している年齢層がある。65~69歳だ。この層は男女合計で6万9800人(男性4万2200人、女性2万7600人)増加している。男女合計で見た場合、その他の全ての年齢層が減少しているにもかかわらず、この年齢層だけが増加している。より正確に言えば、男性に限り、70~74歳も過去3年間で4400人増加しているが、女性が▲2万1100人のため男女計の70~74歳では▲1万6700人となる。
また、過去3年間で▲18.2万人と先に述べたが、そのうち▲10.6万人は75歳以上の方々である。
もうひとつ、興味深い数字を出しておこう。過去3年間の男女合計で見た場合、75歳以上の層に次いで基幹的農業従事者が減少しているのが60~64歳の▲6万3700人である。つまり、簡単に言えば、60~64歳の6万人強が減り、65~69歳の6万人強が増えているということになる。
ここからは想像の域を出ないが、いくつか思いついたことを記してみたい。
第1に、最も簡単な解釈は高齢化により主要な担い手の最大人数の層がそのまま60~64歳から65~69歳にシフトしたということである。当たらずとも遠からずかもしれないが、現実には団塊の世代のすぐ下の人数が多い方々が頑張っているということであろう。
第2に、2018年に改正された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の趣旨(65歳までの「高年齢者雇用確保措置」)を先取りしたような形で定年年齢の引き上げの影響が出始めているのかもしれない。この法律そのものの効果は今後であるが、世の中の動きは早い。身体が動けるうちに次の生活を考える人が出てきてもおかしくはない。例えば、60~65歳までは企業で働き、その後の10~15年は農業...という流れ、場所や健康に恵まれた人とって、これはこれで良いと思う。
第3に、75歳以上の層の減少を考えてみたい。3年前の2016年時点で75歳以上ということは、団塊の世代(1947~49年生まれ)よりも上の世代である。つまり、現在では70代後半から80代、まだまだ元気な方達も多いが、この年齢になると流石に農業の現場から離れる人も多いことの結果であろう。この層の今後は団塊の世代が中心になるが、年齢的には今後5~10年程度を経過すると大きく減少する可能性が高い。筆者(59歳)は団塊の世代と団塊ジュニアの間で人数が少ない世代だが、国立社会保障・人口問題研究所が出している2035年の人口ピラミッドを見ると、既に15年後には団塊の世代と筆者の世代の人数はほぼ同じになることが見通されている。また、90歳を超えると男女のピラミッドの形が大きく異なることにも注目したい。
第4に、その段階(つまり約15年後の2035年)になると世代別人数が最大である団塊ジュニアが65歳定年の直前となる。農業政策に限らず、日本社会の全てのインフラを、目先の短期間のあれこれに振り回されず、今後15年くらい先を見て5年くらいを目途に段階的に再構築しておけば、後は縮小均衡の流れの中でそれなりにバランスが取れる可能性が高いのではないだろうか。年の瀬の雑感である。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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