【小松泰信・地方の眼力】地方創生をけがすサクラとIR2019年12月25日
もうこれぐらいのことでは驚かないが、中日新聞(12月15日付、滋賀県版)によれば、自民党の世耕弘成参院幹事長が14日、長浜市内での講演で、「桜を見る会」の招待者名簿を内閣府が破棄していた問題について、「会が終わったらできるだけ早く消去するのは、ある意味当たり前だった」と述べたそうだ。ある意味とはどんな意味? もちろんそのあとに、「どういう基準で招待したのかが明らかにならない状態がいいのかどうか、公文書管理や個人情報保護の専門家も入れて議論していかなければいけない」と、もっともらしい自己保身のセーフティーネットも忘れてはいない。
◆「アーキビスト」の養成よりも安倍族の消去を要請する
そのネットと絡んでいるのだろうが、東京新聞(12月22日付)によれば、政府は公文書管理の専門職「アーキビスト」の公的な資格制度に基づく認証の付与を、2021年から始める方針を固めたそうだ。記事は、「首相主催の『桜を見る会』や森友、加計学園問題などで発覚したずさんな文書管理への批判をかわす狙いもあるとみられ、保存や管理をどこまで徹底できるのか実効性が課題となる」としているが、この認識ちょっと変。少なくとも第2次安倍政権以前の文書管理はそれなりのルールに基づいて行われていたはず。それが2017年2月17日の衆議院予算委員会で、安倍氏が森友問題に「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と発言してから、文書管理がずさんになったことは多くの人が感じるところである。その後、自殺者まで出した改ざんなどを経て、世耕氏の評価する「消去」にまでつながるわけだ。
姑息に、なじみのない専門職を養成するよりも、公文書をここまで毀損した安倍族を消去し、公文書の取り扱いを現政権発足前に戻せば良いだけの話。茶坊主によるセコイ論点ずらしには乗らぬこと。
◆地方にも舞い散るサクラ
サクラといってもこちらは、有償による動員問題。東京新聞(12月16日付)は、地方創生の一環で地方自治体が開く移住相談会で、その運営業者が一部の参加者に現金を支払い、不適切な参加者募集行為をしていたことを取り上げている。
「求人サイトで応募した。移住に関心があるふりをして、現金を受け取った」とは、複数の相談会に参加した男性の証言。業者のなかには、現金を受け取ることを自治体側に漏らさないよう徹底し、参加者に誓約書を書かせていたところもあるとのこと。
「自治体にはやらされ感がまん延している。その一つがアリバイとしての移住相談会だと言える。そのため、民間企業への丸投げが起きる。......相談会の『サクラ』が事実なら、違法な公金支出になりかねない」とコメントを寄せているのは、金井利之氏(東京大学教授、自治体行政学)。
「時間的にも人材的にも、すべて自前では難しい面がある。ただ、しっかりと見極め、適正な企業と契約してほしい」とは、地方創生を推進する内閣官房の担当者。
地方創生を目指し、サクラに思いを託さねばならない現場の情況がただただ痛々しい。
◆IRは地方を早世させても創生はさせない
日本でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業への参入に関心を寄せていた中国企業側から、現金数百万円を不正に受け取った疑いが強まったとして、東京地検特捜部が25日、収賄容疑で衆院議員秋元司容疑者(48)=自民、東京15区=を逮捕したことを共同通信社が伝えている(12月25日11時56分)。贈賄容疑で数人も逮捕するとのこと。秋元容疑者は2017年8月から18年10月まで内閣府副大臣でIRを担当していた。中国企業を巡る外為法違反事件は、政界の汚職事件へと発展したわけだ。特捜部は事業に絡む不正の全容解明を目指すそうだが、当該事業全般にわたる不正行為を白日の下にさらすことを願う。
IRに地方創生の夢を託し、誘致合戦に熱心な地方都市も少なくない。長崎県もそのひとつ。長崎新聞(11月10日付)に掲載された今井一成氏(長崎県弁護士会)の「佐世保市へのカジノ誘致」と題した小論は示唆に富んでいる。その要点は次のように整理される。
◇2018年成立の法律で新たに設置が認められたIR(特定複合観光施設)は、カジノ(賭場)を設置できる点で従来の観光施設と大きく異なる。
◇長崎県が誘致する一番の狙いは経済効果。確かにカジノをもつIRが成功すれば、経済効果は期待できる。しかし、つくれば必ずもうかるというものではない。誘致できたとしても、国内外のIRとの競争に勝たねばならない。
◇負けた例として、韓国の江原道(カンウオンド)では、ギャンブル依存症患者と質屋が増える一方で、経済効果は上がらなかった。米国のアトランティックシティーでは、カジノの閉鎖が相次ぎ、失業率が上昇し、税収が減少した。
◇IR誘致自体がその地域にとって「ギャンブル」である。賛成にせよ、反対にせよ、10年先、100年先を見据えて考えることが肝要。
◆「ささやかな意思表示」を積み重ねる
しんぶん赤旗(12月25日付)には、長崎県の石木ダム問題に関して、強制収用に反対する議員連盟と県民ネットワークが24日に同ダム建設の事業認定を見直すよう赤羽国交相に要請したことを伝えている。残念ながら、大臣、副大臣とも応対せず、要請書は省の担当者が受け取ったそうだ。要請書は、予定地に住む13世帯を行政代執行で排除しようとする動きを「極めて深刻な人権侵害だ」とし、「住民を強制的に排除して行うダム建設が本当に必要なのか、再検討すべきだ」と強調しているとのこと。
西日本新聞(12月24日付)には、前川棚町長竹村一義氏が、今年9月、反対派の市民有志でつくる「石木ダム・強制収用を許さない県民ネットワーク」に加わったことを伝えている。ダム事業自体には反対ではないが、予定地で立ち退きを拒む13世帯を公権力で排除することに疑問を抱いて、とのこと。2009年10月に、強制収用が可能になる事業認定を国に申請する際には、長崎県知事、佐世保市長と並んで記者会見に臨んだ。竹村氏によれば、当時県は「話し合いを進めるための事業認定」と説明していたが、「住民を説得できなかった力不足を、今となって強い権力に頼るしかないのか。あのときの説明に立ち返れば強制収用はできないだろう」と語る。反対派となった理由については、「『今更なんば言いよっとか』と言う人もいるだろうが、ささやかな意思表示だ」とのこと。
一方で地域住民を日々苦しめ、自然を破壊する。他方で賭場の開帳にまで狂奔する。そんな連中に地方創生は取り組めない。
この国の至る所で「ささやかな意思表示」が積み重ねられることが、壊国状態にあるこの国を救う。
「地方の眼力」なめんなよ
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