【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(162)ヒトの移動2019年12月27日
国連の資料によれば、2019年の国際移民の数は2億7200万人に達し、2010年当時より5100万人も増加しているようだ。我々日本人の多くは物心ついてからずっと日本国内で一生を過ごすが、地球全体では様々な理由により移民となる人々の数が日本の総人口の倍以上存在することは理解しておいた方が良い。
ところで、日本語の「移民」という言葉の射程は英語のemigrant, immigrant, migrantの3つが混ざっているからわかりにくい。
最初のemigrantは自国から他国へ「移住」を目的として出る人のことである。そのため、「移住」の英語はemigrationが使われる。因みに国籍離脱の場合にはexpatriationという単語が使われる。
次のimmigrantは、emigrantとは逆に他国から自国へ「移住」目的で来ることを示すが、外国人の入国一般を指す意味も併せ持つ。英単語の試験としてはこれら2つの単語の意味の違いだけでなく、スペルの"m"が1つか2つかという細かな点も留意点になる。日常生活では海外旅行の際、訪問国で入国をチェックされる場所はイミグレーションであることを思い出して頂ければと思う。
最後のmigrantは、ある場所からある場所へ移る人のことを言う。今回の国連の報告書の正式名称は「International Migrant Stock 2019」であり、日本語の多くのニュースでは「国際移民」と訳されている。間違いではないが、厳密に言えば「国際移民を含む人の移動」ということになろう。
なお、蛇足になるが米国にはmigrant divorceという法律用語がある。これは「仮住離婚」とか「渡り鳥離婚」などと呼ばれている。かつては州法による離婚原因の規定が様々であったため、離婚原因が厳格な州の人間が、裁判で離婚判決を得るために離婚原因が緩やかな州に移り判決を得ることを言ったようである。こうした形で得られた判決の効力については有名な判例があるが、ここでは割愛する。
それにしても、以上の全てをまとめて「国際移民」というのは何とも言えないが、日本的な感覚ではわかりやすいことも確かである。2019年に国際移民を最も多く受け入れたのはヨーロッパ(8200万人)であり、これに北米(5900万人)と、北アフリカ・西アジア(4900万人)が続いている。
何となく多くの人が感じているように、これらの国際移民の多くは比較的少数の国に集中している。2019年の数字を見ると、emigrantの約2/3が20か国に集中している。最大の受け入れ国は米国(5100万人)であり、次いでドイツとサウジ・アラビアが各々1300万人で続く。さらに、ロシア(1200万人)、英国(1000万人)となる。
ではimmigrantの方はどうか。もしかすると、ここで多くの人は最も移民を送り出している国は中国と考えるかもしれないが、実は異なる。
2019年に世界で最も多くのimmigrantを送り出したのはインド(1750万人)である。次がメキシコ(1180万人)であり、中国(1070万人)、ロシア(1050万人)、シリア(820万人)と続く。東京都の人口を1400万人と考えれば、これらの国々が1年間に出した移民数の大きさがわかる。なお、この数字は単年度の数字であるため本来なら過去何年かの累積で見ると、より現実的な規模がわかるはずだ。
やや興味深い傾向としては、北米、オセアニア、北アフリカ、西アジアに住んでいる移民の大半(59~98%)がこれらの地域以外からの移民であるのに対し、サハラ以南のアフリカ、東アジア、東南アジア、ラテン・アメリカ、カリブ海諸国、中央アジア、南アジアの移民は、同じ地域の他国からの移民が多い(63~89%)という特徴がある。これらの特徴の背景は述べられていないが、恐らくは出身国と周辺諸国の政治・経済・社会・文化などの様々な状況と、移動の容易さ、さらには生活習慣の類似性など、様々な要因が複雑に影響しあっているのだと考えられる。
実は率直なところ、当初は筆者も国際移民が一番多いのは中国とインドのどちらかとは思ったが、インド、メキシコ、中国とは思わなかった。何事も思い込みは良くないと改めて感じた年の瀬である。
今年1年、毎週の雑文をお読み頂き、大変ありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。
それでは、良いお年をお迎えください。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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