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【熊野孝文・米マーケット情報】価格が抜けている「コメの事前契約研究会」の不思議2020年2月4日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

【熊野孝文・米マーケット情報】
 農水省が1月24日に「コメ取引の事前契約研究会」なるものを開催した。これは政策統括官の私的諮問機関的な位置付けで、事前に公表されているわけではなかったが、農水省は開催後にホームページで公表すると言っている。その研究会の参加委員はコメの生産者2名、中食・外食企業からそれぞれ1名、集荷団体から2名、米卸1名、それと大学教授が1名の計8名で構成され、3月までに4回開催され、4月に中間とりまとめが報告される予定になっている。

 その趣旨は「消費動態の変化や人口減少等により主食用米の需要が毎年10万t減少すると見込まれる中で、需要に応じた生産・販売を推進し、豊凶等による価格変動に左右されない経営環境を整備するためには、事前契約によるコメ取引の拡大が重要で、効果ある事前契約の内容等について研究・検討する」としている。

 事前契約の現状と課題について、配布された資料によると、事前契約の意義として(1)今後、産地において需要に応じた生産・販売に取り組むためには、あらかじめ販売先や販売数量の見通しを立てることが必要(2)そのための手法として、産地と実需者間における事前契約、特に播種前の契約や複数年契約の締結を進めて行くことが極めて重要-などと記されている。現状について、グラフに事前契約数量と価格取決数量比率の推移が掲載されており、事前契約数量は平成26年産が102万tであったが、年々上昇し元年産では143万tになっている。このうち価格決定数量の比率はいずれの年産も40%台に留まっているが、元年産を示したグラフの中に「6月末時点では12%」と記されている。これは何のことか? と主催した農産企画課の担当者に質すと「取決め数量とは一定幅(基準価格のプラスマイナス10%範囲内)」のことで、6月末の12%と言うのは、実際に価格まで決めた数量のことだとの答え。つまり事前契約の元年産143万tとは価格が抜けた契約で、いわば口約束の数量という事になる。価格と数量がセットになっていない契約のことを事前契約と称しているに過ぎない。価格と数量がセットになっている事前契約がどのくらいあるのか質すと「それは調べていない」と言う。であれば、価格と数量がセットになった契約を推進するようにすれば文字通り生産者にとっても実需者にとっても安定した取引になるはずである。

 試験上場中とはいえコメ先物市場では、新潟コシと秋田こまちは1年先の価格が出ているのだから令和2年産の事前契約をしたいのなら新穀の受渡し限月になる10月限、12月限の価格で受渡しすることを産地と卸が取り決めれば良いだけの話である。その他の産地銘柄は東京コメの10月限の価格を基準に産地と卸が契約する産地銘柄ごとの格差設定の格付けを双方で合意した取決めをすればリスクを軽減した事前契約が可能になる。

 おそらく農水省はこの研究会の議事録は公表しないと思うが、第1回目の研究会で出席委員から「事前契約を推進するには国の支援が必要」という発言があった。支援とは事前契約を行った場合、それに対する助成金のことを言っている。

 農水省経営統計調査の中に営農類型別の時間当たりの所得と補助金を示したものがある。それによると水田作は時間当たりの所得は881円、うち補助金は613円で実に7割が補助金である。その他は野菜877円(うち補助金99円)、果樹848円(うち補助金51円)、畜産3007円(うち補助金279円)となっている。

 コメは国内農畜産物の粗生産額の17%を占めるに過ぎないが、補助金の7割はコメに充当されている。元年度予算では水田活用の直接支払い交付金3215億円、ゲタ対策1998億円、ナラシ対策740億円などである。それ以外にもコメが売れなくて困った時の対策として円滑化対策の助成金もある。国以外も自治体がコメに手厚い助成を行っている。

 いったいいくら助成金を注ぎ込めは満足するのか? 百歩譲ってこれだけの助成金を注ぎ込んでコメが産業化され、海外にも輸出できるような競争力を持った産業になれば良いがそれは間違ってもあり得ない。なぜならコメはマーケットを見ずに制度と助成金ばかり見ているからで、その責任は農水省にもある。この研究会にしても真に事前契約で安定したコメの生産・流通・消費が実現できるようにするならばマーケットで形成される価格を無視してできるはずがない。農水省は研究会を開催する前に政策統括官は食料産業局・経営局と事前協議してたたき台を作るのが先ではなかったのか。


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