【小松泰信・地方の眼力】「ふるさと納税制度」を汚したのは誰だ2020年2月5日
2008年度に自分の出身地(ふるさと)など居住地以外の自治体に、所得税や住民税の一部を寄付できる「ふるさと納税制度」は始まった。寄付者に対する返礼品が認められることや、15年度に控除額が引き上げられるなどして人気が高まった。しかし、自治体間の返礼品競争が過熱したため、総務省は返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限定する新制度を19年6月に導入した。大阪府泉佐野市など4市町は、それ以前に基準を示した告示に従わなかったとして除外されたため、これを違法として泉佐野市は同年11月に提訴。しかし大阪高裁は30日、同市からの請求を却下。市は、今後も全面的に争う姿勢を示している。
◆総務省に厳しい地方紙
まずこの問題に関する地方紙(京都新聞、南日本新聞、神戸新聞)の見解を、その社説から見ることにする。
京都新聞(1月31日付)の社説は、豪華な返礼品を贈ることで寄付を募っていた泉佐野市の姿勢を「確かにやりすぎの面はある」とする一方で、「総務省が返礼品を法規制する新制度を始めたのは昨年6月である。規制前の行為を除外の判断理由にしたことや、それを是認した司法判断は理解に苦しむ」とする。つまり判決は、総務省が「後出しじゃんけん」で自治体を統制することにお墨付きを与えたとして、「国と地方の関係を『上下・主従』から『対等・協力』に転換させる地方分権の流れを後退させかねない。地方に対する支配が再び強化」されることを危惧する。
さらに、「問題は返礼品だけではない。ふるさと納税制度は、特定の自治体に寄付すれば自己負担分を除いた額が居住地の住民税から差し引かれる仕組みで、都市部では住民税がマイナスとなる例も目立つ」ことを指摘し、「制度そのものがはらむ矛盾についても抜本的見直しが不可欠」とする。
南日本新聞(1月31日付)も、同市の姿勢に対して「本来の趣旨に沿ったやり方ではなかった」とする一方で、「判決が、新しい法を施行以前にさかのぼって適用できない『法の不遡及(そきゅう)』の原則を超えてまで、総務相の裁量権を認めたのには疑問が残る」として、「対等であるべき国と地方のありように禍根を残した」とする。
さらに「15年には減税対象となる寄付額の上限を2倍に引き上げて自治体間の競争を促す」が、「返礼品のルールづくり」は後手。他の自治体から不満の声が強まると「返礼品調達費は寄付額の30%以下」「返礼品は地場産品に限る」と"後出し"の通知を連発、自粛を要請する。そんな総務省の「制度設計の甘さと自治体への高圧的な姿勢」を指弾する。
神戸新聞(1月31日付)は、同市にも問題はあることを認めつつも、「法制化前の行為を理由にした介入を許せば、国の都合で自治体の取り組みを自由に制限できる。言うことをきかない自治体への『見せしめ』がまかり通れば、地方自治の萎縮を助長しかねない。国と地方を『対等・協力』関係と位置付けた、地方分権一括法に逆行する」と、手厳しい。
そして、新制度においても続く返礼品競争を「制度自体が持つゆがみ」とし、当該納税制度が狙った地方の財源確保は、「交付税や税源移譲などで実現するのが筋」とする。
◆泉佐野市に厳しい全国紙
産経新聞(2月3日付)は、判決に対して「返礼品競争そのものを『弊害』と指弾した判断は、十分うなずける」とする。
そして、関係者には「なりふり構わないやり方」(泉佐野市)、「過度な返礼品を出した姿勢」(他の自治体)、「お得感につられる姿勢」(寄付者)、そして「制度の欠陥、後手に回った見直し、返礼品競争を過熱させた責任」(総務省)について反省を求めたうえで、「よりよい地方の創生を目指す契機」としてこの判決を受け止めよとする。
朝日新聞(2月2日付)は、市に対しては「節度のない泉佐野市のふるまいは、判決が指摘するように、厳しく批判されて当然だ」、総務省に対しては「自治体と信頼関係を築く努力をどこまで重ねたのか。『上下・主従』の目線はなかったか。法廷闘争にまで発展した要因を、省みる必要がある。そもそも、ふるさと納税は制度設計の甘さから、さまざまなひずみを抱えたままだ」と、それぞれの問題点を指摘する。そして、「自治体が福祉などに使う民生費は10年間で、9兆円あまり増えた」ことから、「地方財政と税制の全体を見回した改革」の必要性を指摘する。
読売新聞(2月3日付)は、「総務省の対応が後手に回った感は否めない」としつつも、「泉佐野市は、その地方とは無縁のギフト券を大量に提供した。集めた貴重な寄付金を返礼品の調達経費などに充てた。こうしたやり方が制度の趣旨を逸脱しているのは、誰の目にも明らかだろう」と厳しい。そして自治体に対しては、「地域の課題や独自の政策をアピールし、賛同を得られるよう努力」することで、「本来の趣旨に沿った、地方の活性化につながる取り組み」を求めている。
日本経済新聞(2月1日付)は、「異常な寄付集めを断罪することを重視した判決」、「年間500億円近い寄付を集めた泉佐野市は批判されて当然だ。多くの自治体の理解も得られるだろう」、さらには同市の姿勢を「暴走」と表現する厳しい見解を示す。そのうえで、「返礼品のルールがないなど総務省の当初の制度設計に不備があったのは確か」とする。
毎日新聞(1月31日付)は、「新制度移行までの間隙(かんげき)を突いた寄付集めなどで、泉佐野市は昨年度約500億円もの寄付を荒稼ぎした。高裁判決は『極めて不適切』だと指摘した。異常な手段で他自治体の税収を事実上横取りしたことは、批判されてしかるべきだ」と、市の姿勢を糾弾する。
その一方で、「国の裁量による制裁の余地を広げ、地方との対等な関係をゆがめるおそれがある」として、「法律による規制以前の行為であっても、国による除外は裁量権を逸脱しないとした高裁判断には疑問が残る」とする。
そして、「返礼品の上限を定めた新制度がスタートして半年以上たったが、地域支援と無縁のカタログショッピング化したゆがみが是正されたかは疑問である。問題を根本的に解決するためには、やはり返礼品を廃止するしかあるまい」とする。
◆泉佐野市は法を犯したのか
泉佐野市は多額の負債を抱えて財政破綻寸前だったが、ふるさと納税で市の財政規模に匹敵する寄付金を集め、市内の小中学校になかったプールの整備などを進めてきた。「(財政難で)市民サービスが他の自治体より遅れ、ふるさと納税を活用してきた」、「国に従わなかったことで不利益な扱いをするのは、地方自治法に反している」、「主張が全く認められず、到底受け入れ難い」と、泉佐野市長の千代松大耕(ひろやす)氏は、判決後の記者会見で語った。
書きぶりで判断すれば、地方紙は総務省に厳しく、全国紙は泉佐野市に厳しい。その違いは、苦悩する地方自治体の現実を知っているか、知らないかによるもの。同市は法を犯したわけではない。与えられたルールの中で、ぎりぎりのプレイをしてきただけ。裁かれるべきは、現場に無知無関心な役人、官僚、政治家、そしてジャーナリズムである。
「地方の眼力」なめんなよ
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