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【浅野純次・読書の楽しみ】第47回2020年2月15日

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◎NHK「ETV特集」取材班 『証言 治安維持法』(NHK出版新書、990円)

 
 治安維持法といっても過激思想取締法くらいの知識の人が多いでしょう。であれば今の時代にそんな法律が通るはずもない、と思われるかもしれません。

 本書は、NHKの特別番組を作ったスタッフによって書かれました。法律が出来上がっていく過程と逮捕や取り調べの状況など丹念に描かれます。しかし、さらに重要かつ興味を引かれるのは左翼の人たちが逮捕され尽くした後の状況です。

 体制強化で特高など定員が急増した内務省は、危険人物を逮捕し尽くしたからといって人員を減らすわけにもいかず、本来の対象でない人たちを次々に捕まえていくのです。「なぜこんな理由で捕まるのかという事例が次々に出てくるんですよ」という発言そのままの状況になります。

 実際、校内でレコード鑑賞、読書会などのサークル活動をした図画の教師、ハングルを学ぼうとした朝鮮人教師(朝鮮では日本語を強制した)などの逮捕事例が紹介されます。

 捕まると拷問で自白を迫られ、釈放されても教師を辞めざるをえなかったそうです。最後は「それぞれの戦後」と「教訓を現代に活かすために」で締めくくられます。歴史に目をつぶることは未来を毀損することにつながると思いつつ、一気に読了。貴重な記録でした。

◎宮脇昭『いのちの森づくり 宮脇昭自伝』 (藤原書店、2860円) 
 
 宮脇昭さんは、日本中の海岸線や里山や工場、道路沿いまで場所を選ばず森を作り続けてきました。どころか世界各地を調査し、ボルネオ、アマゾン、万里の長城などでも森づくりを実践。その行動力は世界でも比類のないものです。

 植えるのはあくまで土地に根ざした木々でシイ、タブ、カシ類の広葉樹が主体です。樹種を混ぜ、低木、中木、高木に下草を大事にする。かくして短年月のうちに鬱蒼たる森が生まれます(私の大学キャンパスもそう)。

 こうして地震、火事、津波、土砂崩れに強い地勢が生まれてきたわけです。今でこそ宮脇方式の森づくりには誰もが賛成しますが、かつては内外から総スカンを食ったそうです。

 へこたれず我が道を追求した宮脇さんの自伝と講演要旨が面白くないわけがないでしょう。ドイツ留学で「なめて、触って、調べろ」と指導教官に教えられたのが現場重視の出発点になったのだとか。森と農業とのコラボこそが日本の環境を守るカギではないかと思いつつ、お勧めします。

◎日経コンストラクション 『ダムと緑のダム』 (日経BP、2200円)

 堤防の決壊など河川氾濫が住宅と田畑に甚大な被害を及ぼすことが増えてきています。コンクリートのダムと森林のダム機能の両者についてつぶさに検討を加えた本書は、水害を防ぐための議論にとって貴重な視点を提供してくれます。

 結論からいうと、どちらかに頼りすぎて片方を軽視することは間違っている、両者の機能を高める中で最適な流域マネジメントを追求すべきだ、ということが強調されます。

 森の保水効果を過大視すべきではない、広葉樹でなくてもかまわない、森は渇水期にはむしろ河川の流量を減らす方向に働く、など人によっては疑問を抱くかもしれませんが、とはいえ森の重要性が否定されているわけではありません。

 東京五輪の際の異常渇水が登場しますが、確かにあの時はまともに水が使えませんでした。多すぎても少なすぎても困るのが水。本書によって水の備えが万全になるよう期待してやみません。


本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】

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