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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】「標的」は日本人?2020年2月20日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

◆使い分けるオーストラリア

 先日、あるセミナーの開会のご挨拶で「ヨーロッパでは米国の牛肉は食べずに、オーストラリアの牛肉を食べています」と紹介して下さったので、そのあとの私の話の中で、次のことを補足させてもらいました。「日本では、米国の肉もオーストラリアの肉も同じくらいリスクがあります(ホルモン・フリー表示がないかぎり)。オーストラリアは使い分けて、成長ホルモン使用肉を禁輸しているEUに対しては成長ホルモンを投与せず、ザルになっている日本向けには、しっかり投与しています(このことは日本の所管官庁にも確認済みです)。」

 EUは、米国からの報復関税措置にも負けずに、ホルモン投与の米国牛肉の禁輸を続けています。最近は、米国側も、オーストラリアのように、EU向けの牛肉には肥育時に成長ホルモンを投与しないようにして輸出しようという動きがあると聞いています。

◆米国では敬遠され始めた「ホルモン」牛肉

 最近、女性誌で、「米国国内でも、の商品は通常の牛肉より4割ほど高価になるのだが、これを扱う高級スーパーや飲食店が5年前くらいから急増している」と紹介されています。また、ニューヨークで暮らす日本人商社マンの話として、「アメリカでは牛肉に『オーガニック』とか『ホルモン・フリー』と表示したものが売られていて、経済的に余裕のある人たちはそれを選んで買うのがもはや常識になっています。自分や家族が病気になっては大変ですからね。」と紹介されています。

(Yahooニュース)
【約40年で消費量半分に 「アメリカ人の牛肉離れ」の背景に何が】

 一方の日本人は、日米協定が発効した1月だけで前年同月比で1.5倍に米国産が増えるほど、米国の成長ホルモン牛肉に喜んで飛びついている、嘆かわしい事態が進行しています。

 米国も、米国国内やEU向けはホルモン・フリー化が進み、日本が選択的に「ホルモン」牛肉の仕向け先となりつつあるのです。

◆米国人が食べないものを日本に送るのか

 米国の穀物農家は、発がん性などが懸念視されている除草剤成分グリホサートを雑草でなく麦に直接散布して枯らして収穫し、輸送時には、日本では収穫後の散布が禁止されている農薬の防カビ剤を噴霧し、「これは〇〇(日本人への蔑称)が食べる分だからいいのだ」と言っていた、との証言が、米国へ研修に行っていた日本の農家の複数の方から得られています。

 グリホサートについては、日本の農家も使っているではないか、という批判がありますが、日本の農家はそれを雑草にかけるのです。それが問題なのではありません。農家の皆さんが雑草にかけるときも慎重にする必要はありますが、いま、問題なのは、米国からの輸入穀物に残留したグリホサートを日本人が世界で一番たくさん摂取しているという現実です。

 農民連分析センターの検査によれば、日本で売られているほとんどの食パンからグリホサートが検出されていますが、当然ながら、国産や十勝産と書いてある食パンからは検出されていません。しかも、米国で使用量が増えているので、日本人の小麦からのグリホサートの摂取限界値を6倍に緩めるよう要請され、20171225日、クリスマス・プレゼントかのようにして緩めました。日本人の命の基準値は米国の必要使用量から計算されるのでしょうか。

 さらに、収穫後の散布が日本国内では禁止されているイマザリルなどは、1975年に日本の米国レモンの海洋投棄に激怒した米国に「日本産自動車を止めるぞ」と脅された結果、「禁止農薬でも米国がかけると食品添加物に変わる」というウルトラCの分類変更で散布を認めてきました。禁止農薬がどうして食品添加物になってしまうのか、唖然としますが、食品添加物に分類すると、輸入レモンのパッケージにイマザリルと表示されるので、こんどは、この表示も撤廃するよう、日米交渉で求められています。このあたりについては、以前のコラムも参照して下さい。

【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】国民の命を守るのは生産者(18.12.13)


◆衝撃的な動画

 日本人が標的にされている「証拠」はまだあります。Youtubeで公開されている動画の中で、米国穀物協会幹部エリクソン氏は、「小麦は人間が直接口にしますが、トウモロコシと大豆は家畜のエサです。米国の穀物業界としては、きちんと消費者に認知されてから、遺伝子組み換え小麦の生産を始めようと思っているのでしょう。」(8分22秒あたり)と述べています。トウモロコシや大豆はメキシコ人や日本人が多く消費することをどう考えているのかがわかります。われわれは「家畜」なのでしょうか。

 また、米国農務省タープルトラ次官補は「実際、日本人は一人当たり、世界で最も多く遺伝子組み換え作物を消費しています」(9分20秒あたり)と述べています。「今さら気にしても遅いでしょう」というニュアンスです。

(youtube)
怖くて食べれない話(遺伝子組換えを押し売りするアメリカ)


◆国産にシフトしないと命は守れない

 メッセージは単純明快なのです。国産の安全・安心なものに早急に切り替えるしかないということです。ほとんどの食パンからグリホサートが検出されても、国産や十勝産と書いてある食パンからは検出されていないのです。つまり、小麦も国産に切り替えないと自分や次の世代の命が守れないということです。なんでも従順に従い、国民の命を差し出してくれる日本は格好の標的になっていると言っても過言ではありません。牛肉も、豚肉も、乳製品も、あらゆる食料についても同じです。一日も早く行動を起こさないと手遅れになります。

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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