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【熊野孝文・米マーケット情報】コメ売り場に商品がなくなった新型コロナウイルスの影響2020年3月3日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

コラム 米マーケット市場 見出し画像.jpg
 身内の話で恐縮だが、家内から「マスクとトイレットペーパー、それとコメを買ってきてほしい」と頼まれた。マスクとトイレットペーパーは分かるが、コメはあるのになぜ買って来るのか問いただしたところスーパーで5kg精米を5袋も買い込んでいる人を見かけたからだという。まさかと思い大手スーパーに出向いてみるとマスクはもちろんトイレットペーパーも売り切れ、コメ売り場に急いでみるといつもは5kg袋が銘柄別に大きなカートに入れられて山積みされて置いてあるはずだが、きれいになくなっていた。翌日、他のスーパーはどうなっているのか午後1時ごろ4、5店廻ってみると全部は無くなっていなかったものの銘柄によっては既に売り切れているものが目立った。残っているのは2kg袋のブランド米が多かった。

 日本人の遺伝子が呼び覚まされたのか何かあった時はまずコメを確保するという行動パターンは変わらない。

 先週、都下でコメの生産者が集まった勉強会が開催された。この会合も新型コロナウイルスの影響で中止することに決まっていたのだが、生産者のたっての希望により小人数で開催されることになった。主催者は、こだわり米の直営店やおむすび店を経営しているほかネット販売も行うなど手広くコメビジネスを展開している会社で、生産者の勉強会開催の時間になったが、ネット販売の担当役員が勉強会開催時間に遅れそうだという。その理由は、この会社では大手ネット販売会社でもコメを販売しているのだが、このネット販売会社は扱い品目1億点にもなるため発注は全てAIが需要を予測して自動的に発注するようになっている。そのAIが当日に注文数量を大幅に増やしたので担当役員はその対応に追われたのだ。AIがどのようにして精米の需要予測を弾き出したのか知る由もないが、ネットでのコメの注文が増えているという情報は同じ日に中部地区で開催された米穀業者の情報交換会でもそうした事例が紹介されたので、外に出たくない人がネットでコメを注文していることはわかった。ところが注文が殺到しているのはネット販売だけでなく、量販店にも消費者が押し寄せ精米を購入する人が増え、納入業者は追加納入に追われた。

 スーパーのコメ売り場から精米がなくなったという出来事は過去2回あった。1回目は平成5年の大凶作後のコメパニックで、外国産米を緊急輸入、その後外国産米に門戸を開くきっかけになった。2回目は東日本大震災の後で、この時はコメに限らずあらゆるものが品薄になった。コメが売り棚から消えた原因になった元の要因は過去の例でも違うが、今回の新型コロナウイルスの流行、拡大はどこまで影響が広がるのか先が見えない分厄介だ。コメの在庫はあっても物流が滞ったら必要とする消費者の手元まで届かない。東日本大大震災の際もガソリンが不足してしまったことで物流が滞ったことがコメが売り棚から消えた大きな要因であった。

 原因は違えどもコメが売り棚から消えるという騒動があった後には共通する現象が発生した。それは仮需の反動と言えるもので家庭内在庫が増加したことで、しばらくコメが売れなくなった。それだけであれば良いのだが、もう一つ大きな変化があった。それはコメパニックをきっかけに大きく消費量が落ち込んだという事である。年度別のコメ消費量減少量は平成2~6年度が▲0.8kg/年、平成7~11年度が▲0.5kg/年、平成12~16年度が▲0.6㎏/年、平成17年~21年▲0.6kg/年、平成22~26年度が▲0.8㎏/年となっている。平成6年はコメの価格が高騰したこともあって一気に2㎏も落ち込んだ。反動と言うにはあまりにも大きな代償を支払ったことになる。

 今回の新型コロナウイルスの流行で最も大きな打撃を受けているのは観光業界や外食業界である。外食や中食向けにコメを納入、自社でもそうした業態を経営している米卸の経営者に聞くと、外食分野の落ち込みが著しく3割程度減っているという。減少した要因には訪日外国人客の減少も影響している。国はオリンピックイヤーである今年は少なくとも4000万人の外国人が訪れると予想していたが、これも危うくなっている。

 つい1週間前までは3月末の所有権移転を控え、市場に換金急ぎの玉が出て中間クラスのコメも1万4000円を切る売り物が散見されたほか、コメ先物市場では先導役になっていた新潟コシがストップ安になるなど値崩れしてしまったが、家庭用精米の仮需の発生で情勢が一変してしまった。

 
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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