【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第96回 ぼっこ草鞋・藁沓2020年4月16日
草履、草鞋はきわめて安上がりで便利な履物であるが、真冬の寒さにはかなわない。もちろん足袋を履いて草鞋や草履を履くが、雪国の場合、足袋が雪で濡れてしまう。とくに爪先の方が濡れ、さらにはそれが凍ってくる。これではたまらない。
そこで考えたのが、草鞋の先の方に藁製の覆いをつけ、爪先をくるむようにすることだった。これなら雪が直接当たらないし、暖かい。それで私たちの地域の人はこのような冬用の草鞋をつくり、冬の履物として利用した。
しかし、この冬用の草鞋を何と呼んだか、覚えていない。そこで前回登場してもらった高校の同級生のA君に聞いたら、正式には「おそふき草鞋」と言い、彼の地域では「ぼっこ草鞋」と呼んでいたとのことだった。
何で「おそふき」と呼ぶのかわからないので、試しにネットで検索して見たら「おそふき」とは「草鞋にかける、わらで俵編みにつくった爪掛け」のことだという。
それから「ぼっこ草鞋」だが、「ぼっこ」とは山形では下駄など履物の底に付いた雪のことを言うので、このぼっこ=着雪を防ぐための草鞋ということでこのように呼んだのであろう。
それを聞いたとき、ふと私の頭にこんなことが浮かんだ、私の生家の地域では「つまご草鞋」と呼んでいたのではなかったかと。雨・雪対策のために足駄の先につける覆い、この覆いを爪皮とか爪子(つまご)とか呼んでおり、それとのからみで覆いのついた草鞋のことを「つまご草鞋」と呼んでいたような記憶が呼び起こされたのである。もちろんそれもさだかではないのだが。
このぼっこ草鞋、いたずらで祖父のを履いたことはあるが、まともに履いたことはない。ところが、A君は学校行事の雪中行軍(雪中で戦えるように鍛えるための軍事訓練、よく言えば戦時中の冬の遠足)のときなどにみんなこれを履いて歩いたという。私たちの雪中行軍は全員長靴だった、前にも書いたように、もうゴム長の時代になっていたからである。でも村はまだだったのだ。
もう一つ、冬用の履物として藁(わら)沓(ぐつ)があった。私の祖父は自分で編んで履いていたが、これは今のゴム長とそっくりである。わらで編んであることからゴム長よりふっくらしており、足を入れたときは温かく、柔らかく感じたものだった。ただし、水雪や雪解けのときには履いているうちに水がしみこんでくることもあった。
なお、味噌造りのときにもこのわら沓を使った。毎年一回自家産の大豆で味噌をつくったのだが、大きな釜で煮た大豆を大きなたらい(当然あのころのことだから木製)に容れ、それを新しいわら沓を履いて踏み潰したのである。煮た大豆の臭いに包まれながら踏む、これは私たち子どもの仕事だった(踏むのは面白かったが、臭いがいやだった)。
なお、古い俵を半分に切り、その半(はん)俵(だわら)それぞれに縄をつけ、手で持てるようにした雪沓もあった。雪が深く積もった朝、祖父や父がその二つの半俵にそれぞれ脚を入れ、縄を手に持って半俵を左脚、右脚とかわるがわる引き上げて歩きながら雪を踏んで道をつけ、私たち子どもが通学できるようにしてくれたものだった。
思い出した、牛馬の沓もわらでつくった。たとえば生家では、冬、荷物や堆肥、屎尿などを積んで運ぶそりを牛に牽かせるとき、牛が雪で滑って転んだりしないように四本の脚の蹄にわらで編んでつくった沓を履かせたものだった。
履物だけでなかった。人間の日よけ、雨よけのかぶり物まで稲わらでつくった。よくもまあわが国の稲作農家は稲わらをさまざまなものに加工利用したものだと感心する。
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