【JCA週報】2030年の農業と農協2020年4月20日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹 JA全中代表理事会長、副会長 本田英一 日本生協連代表理事会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、「2030年の農業と農協」です。協同組合研究誌「にじ」2020年春号に寄稿いただいた福井県立大学(執筆当時)教授 北川太一氏の論文を紹介します。
協同組合研究誌「にじ」2020年春号
2030年の農業と農協
北川 太一 福井県立大学教授
(略)
3.2030年の農協:将来展望
さて、10年先の2030年、農協の姿は、どのように展望できるであろうか。
一般に、総合農協の「適正規模論」は、「規模効果」と「組織力効果」との合成(バランス)であるとされる。しかし現実には、「規模効果」発揮と「組織力効果」発揮の「適正規模」の著しい乖離が生じ、事業によっては連合会機能の補完から主導になる傾向がある。さらには、 「組織力」の発揮が事業効果へと結びつくことの困難性や、組合員の多様化が総体としての組合員の意思として反映されにくい状況が生じている。こうした中での農協の将来像である。
このことに関連して、三輪昌男氏は、1990年代の論稿の中で農協の将来を次のように展望した。
「単協と県連の機能を統合した事業別・主要品目別の事業部が形成されている。どの個人も団体も関係するカネを扱う信用事業の事業部の県一円での展開をベースにして、主として個人に関係するカネを扱う共済事業の事業部がそれに寄り添う形で位置し、それらのネットワークの上に、モノを扱う、どの個人も生活面で関係する生活購買事業の事業部が乗っかり、また、他の購買事業の主要品目別各事業部、販売事業の主産地対応諸事業部が乗っかって、県一円に展開する複合的な事業部ネットワークが編成されている。
それらの土台のところに位置し、いわば根っことしてそれを支える基本単位のコミュニティ・コープが、単協支所区域で活発に活動している。その内部に、各事業部に対応する利用者組織が組まれ、いわゆる意思反映を行っている。
単協本所段階・県段階にコミュニティ・コープの連合の各段階本部が位置する形で、コミュニティ・コープのネットワークが編成され、それが、複合的な事業部ネットワークとさらに複合して、県域全面ネットワークが編成されている。」
農協はこれからも、市場経済に対応するために組織の大規模化を行い、その事業方式を連合会にも依存しながら、絶えず効率化や合理化を求めて事業を進めていかなければならないであろう。その意味で、三輪氏の言う県域レベルでの「事業コープ」が現実味を帯びていると思われる。
その一方で、「コミュニティ・コープ」の展望はどうであろうか。地域の現場では、既存の集落型農業法人をはじめとする地域づくりを目的とした法人設立の動きがある。それらは、必ずしも狭い意味での利益追求にとらわれていない。地元の資源を活用し、地域内外の人たちと交流し、さらには地域での経済的循環も重視した小さな事業や活動を展開している。運営においては、「組織の原理」(見える関係を重視した人間どうしのつながり)を尊重し、協同の実践に関わる人たちの満足度向上と地域における公益の追求をめざすところに特徴がある。
このように考えると、将来の農協は、(1)信用事業を推進していくための県域農協と大型化した支店、(2)営農面事業を展開していくための地域センター、(3)小地域・コミュニティベースの地域経営や食農に関わる協同活動、という三層構造が想定される。そして、(3)の部分は、必ずしも農協内で自己完結するのではなく、さまざまな地域の主体と連携する「中間組織体」(市場と組織とを結びつける主体)として存在していくことが求められるようになる。中間組織体としての性格を持った農協が、協同組合らしい事業と地域に根ざした活動を展開し、多様な協同の主体をつなぐ「社会的接着剤」の役割を果たす。このことを通じて農協が、行き過ぎた市場原理主義の弊害を克服し、持続可能な地域社会・コミュニティの発展に積極的に関与する主体として存在するならば、多くの共感を生み、そのアイデンティティが確立するに違いない。
協同組合研究誌「にじ」 2020春号より
https://www.japan.coop/wp/publications/publication/niji
※ 論文そのものは、是非、「にじ」本冊でお読みください。
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