【坂本進一郎・ムラの角から】第32回 米減らしにふさわしい名称は「減反」か「生産調整」か?2020年4月21日
米減らし(政策)として「減反」と「生産調整」とではどちらの名称が、我々の気持ちにピッタリか。私は「減反」のほうがぴったりくる。なぜなら減反という言葉は「直截」で分かりやすいからである。ところが生産調整というと、コメ栽培を縮小して、その分何か新しい作物を定着させるという意味がある。
減反政策は我々が八郎潟干拓入植事業として入所した1970年(昭和45年)に始まった。訓練生としてこの減反政策に全国の組合長が大騒ぎしたのを覚えている。
翌年(昭和46年)我々は営農を開始したが、営農は5人の農事組合法人―別称グループ)で臨んだ。しかし法人は合理的組織であっても運用するのは人間で、人間は感情を持っている。時として感情が理性を飲み込み、その結果運用に齟齬をきたし、2年で農事組合法人は解散の憂き目にあった。だが減反面積の割り当ては法人でなく、個人宛てに来た。つまり私の営農は減反とともにであった。
減反初年目のことはよく覚えている。グループで集まったとき当然減反のことが話題になった。グループ員はそれぞれ一枚の減反指示書を持っていて、減反割合は一割強。減反奨励金は米並み。誰かが言った。
「これならちょろい」
と楽観的であった。しかし先のことはわからない。また誰かが言った。
「今は慣らし運転かもしれないぞ。こうやってだんだん減反の深みにはまっていくのさ」
事実はその通りになった。ところでこのセンテンスを書くのに日記やら役場から来た書類などを参考にした。
では生産調整なる言葉が使われだしたのはいつか。昭和45年(1970年)には使われていたようだ。とはいえ減反政策が発表されたばかりで国内がわいているので、やはり減反という「言葉」や「文字」には「神通力」があった。たとえば「コメの生産縮小問題」と言わず「減反問題」と座談会などで簡明直截の語りが受けている。またこんなのがある。生産調整奨励金と言わず「減反奨励金」という言葉が日記に2回現われている。第1回目は46年11月24日・ちなみに減反面積2.5ha(減反率25%)、55万円の補償であった。なぜか年初に聞いた条件とは違っていた。同じく「減反奨励金」の2回目は47年11月22日に現れている。ちなみに受取金額は50万円である。上述のように減反問題は沸騰していたので、「減反」の文字は世間を大手を振って歩いた。休耕奨励金という言葉がまかり通ったし、減反は農業生産力の破壊であり、その結果「減反の重圧」で「コメつくりは難儀なものになった」と農民の肩を持つ新聞記事も現れた。そして農林省の公的文書にまで減反奨励金と「減反」という言葉が現れたのである。民間の会話にも減反の言葉は登場する。こんな風にだ。
「昨日おとといと減反田を耕起したので、今日はソバの種をまこう(昭和48年<1973>8月11日の日記より)
しかし減反は人の気持ちを暗くした。減反訴訟を起こすことを考えた。風の便りに北海道の酪農学園大学教授の桜井豊教授がそっちの方面に詳しいということなので、同教授に問い合わせた。「相当覚悟がないとだめですよ」と言われた。子供も幼いうえ、農業経営の基礎が固まっていない。今回は見送ることにした。それから数年後桜井教授に、訴訟を起こしたいと相談すると、減反政策が世間一般に浸透してしまった今、訴訟をしても跳ね返されるだけだと、アドバイスを受けた。このとき拙著と手紙を添えたが、次のような手紙の返事に感動した。
「青刈り問題は、単にコメの過剰問題にまつわるトラブルととらえてはならず『農政の心』をこそ問題にすべきだと存じます。それは人権問題であり、農民が耕作をする自由=農業をする自由の侵害です」
それでは「生産調整」はどういう扱いを受けたのか。実は深く静かに農政の中に潜り込んでいったのである。なぜそれが可能であったか。農水省がこの言葉を推進したかったからである。何故推進しようとしたのか。農水省は断固米減らしを推進する。減らした分転作を行わせる。つまり「生産調整」とは米減らしと転作がセットなのである。この先駆けとして農林省は45(1970)年2月「米生産調整対策特別事業費」として閣議決定により20億円の予算計上をしている。その使途は生産調整を大きく踏み出せるように各県知事と市町村の自由裁量に任せる。
つまり「対策事業費」と言っても「対策室」を設け、「対策室」と「各自治体」をネットで結ぶようなものだから、「深く静かに浸透」は当然のことである。事実大潟村でも46年3月、生産調整説明会が行われている。以後生産調整の案内、実行は役場のルートを通して通達される。
私が懸念するのはこの風景はどこかで見たなということである。どこかとは、戦後の日本を「敗戦」と言わず「終戦」とごまかしていることである。「終戦」というとひとりでに戦争が終わったようなイメージを与える。同じことは生産調整にもみられる。転作をしてもコメに匹敵する代替品が見つからなければ、転作は意味のないものとなって生産調整だけが独り歩きする。結局米減らしに終わり、減反政策と言ったほうがわかりやすいし、世間に訴えやすい。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日