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【森島 賢・正義派の農政論】日本型の新型肺炎対策の失敗2020年4月27日

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【森島賢】

 日本の新型肺炎対策は、当初、独特なものとして世界中から注目されていた。しかし、状況が変わったいま、世界中から嘲笑を浴びている。
 WHOは、感染の初期から、検査と隔離の励行を強調してきた。しかし日本は、無視してきた。そして、集団感染だけに注目し、その発生源の発見に全力を傾けてきた。それをいまでも続けている。そして、そのぶん検査体制と隔離体制、さらに感染者の苦痛を和らげるための医療体制の整備を怠ってきた。その後、集団感染が無数に発生し、また感染源が分からない感染者が、市中に多く潜在する状態になった。
 状況が、このように変わったのに、いまだに集団感染の発生源の発見に全力を傾けるだけで、感染者の早期発見と万全な隔離と治療体制の整備を、いまも怠っている。
 このため、日本は感染の終息は、いまだに見えてこない。韓国や台湾は、すでに終息したというのに、である。
 この状況をみるとき、日本の対策はすでに破綻し、無残に失敗したといっていいだろう。第2次大戦以後の最大の危機を、韓国や台湾は、すでに乗り越えたというのに、日本の安倍晋三政権は、未だに乗り越えられない、という失態を演じている。
 その陰で、多くの国民が感染によって病苦に呻き、死の淵に立たされている。

新型肺炎に新しく感染した人の数

 上の図は、日本と大韓民国(韓国)と台湾で、新型肺炎に新しく感染した人の数を、日ごとに示したものである。
 この図を縦軸の目盛りの違いに留意してみると、韓国と台湾では新しい感染者の数は、最近では連日10以下に減っている。
 これと比べて日本は3桁である。つまり、新型肺炎は韓国と台湾では終息に近づいているが、日本はいまだに猖獗を極めている。
 残念だが、この図は何よりも雄弁に日本の新型肺炎対策の無残な失敗を物語っている。
 なぜ失敗したのか。

 日本は、韓国、台湾と違って、当初から検査と隔離を怠ってきた。それを今でも続けている。そうして、集団感染だけを追っている。
 今は、その時期ではない。集団感染の発生源は、全国の至る所で見付かっている。それらを追いきれる状況ではない。それにもかかわらず、集団感染を追い続け、検査と隔離を怠っている。
 このため、検査の実施数を、ほとんど増やしていない。安倍晋三首相が緊急事態宣言を行った4月7日からの1週間の平均検査数は7139件だったが、最近1週間は7307件で、僅か2.3%しか増やしていない。
 一方、隔離施設の整備はどうか。これも全く進まず、自宅療養などという最悪の対策に依存している。自宅療養などというのは、文字通りに隔離対策の放棄である。

 こうした状況のなかで、政府は国民に対して外出の自粛を要求している。政府の、いわゆる専門家会議の提言は、80%自粛すれば、緊急事態宣言後15日間で感染者数が十分な程度減少する、といっている。これが、政府の自粛要求の根拠である。しかし、15日後の22日になっても、十分に減少するどころか増え続けている。
 では、この提言の根拠は何だったのか。それは、もっぱら怠っている検査の結果である。きわめて数の少ない、そして力を込めて増やそうともしない検査の結果である。資料は、それしかない。
 だから、この提言は、信憑性の低い、厚労省の怪しげな資料に基づいた不可解な提言、といっていい。感染者が増え続けている原因は、ここにある。
 そして、この失敗の責任は、いわゆる専門家の提言を評価できなかった政治にある。

 では、どんな対策を行えばいいのか。
 それは、対策の目的を見失わないことである。それは、治療薬とワクチンを作り出すまでの間、国民の苦痛を最小限に抑えることである。もちろん、その期間を最小限の長さにすることは、最重要な対策である。他用途の薬を代用することも急ぐ。
 その上で、検査体制を整備し、全ての感染者を隔離し、対症療法でもいいから治療を行って、重症化を食い止めることである。
 感染を放置し、本人も知らぬうちに感染し、体内で自然に抗体が作られるのを待つこともあり得る。しかし、地域全体がそのようになるまでに、市中に感染が蔓延する。
 天の配剤を待つ、というのだろうが、それは文明国が行うべきことではない。しかし、いまの日本は、それに近い。

 慶応大学病院の先日の発表によれば、市中の感染率は6%である。単純に日本の人口数を掛け算すれば、756万人になる。一方、厚労省が公表した感染者数は1万3182人だから、2桁以上もかけ離れた数字である。
 この6%という感染率は、それほど驚くべき率ではない。23日に米ニューヨーク州のクオモ知事が発表したことだが、州民の13.9%が感染し、その証拠に、自然抗体をもっているという。ニューヨーク市だけでは21.2%だという。
 慶大病院の調査数は少なく、誤差が大きいとしても、厚労省の公表数字は少なすぎる。厚労省の検査数が少なすぎるという体制的な理由があるからである。
 慶大病院が発表した、この衝撃的な事実は、日本ではすでに集団抗体が作られていることを示しているのかもしれない。それを否定する資料は、日本には存在しない。検査体制が全く不備だからである。

 多くの専門家によれば、実際の感染者数は、厚労省の公表数の10倍以上だろうという。前に「怪しげ」といったのは、この大きな違いのことである。
 慶大病院が発表した数字は事実をそのまま発表したものであるし、多くの専門家が言っていることも事実に近いだろう。
 これでは、鳴り物入りで囃し立てている外出抑制の効果は、10分の1以下しか期待できない。このように、外出自粛の効果は、いわゆる専門家の頭の中にだけある幻想に過ぎないものである。

 もう1つは、隔離体制の整備である。日本で初めて感染を確認したのは、1月16日だった。あれから3か月以上も経っているが、隔離体制は全く不十分である。某県では、隔離病床がないので、感染者のうち半数近くが自宅で待機している。いまからでは遅い、などと傍観者的に言ってはいられない。隔離体制の整備は緊急を要する。
 最近では、検査もされず、だから隔離もされず、戸外の路上で変死し、死後に新型肺炎の感染者だったことが判明する、という事態が各地で続出している。これでは、日本は文明国ではない。
 こうなった責任は政府にある。政府の周囲にいる、いわゆる専門家にも、責任の一端がある。

 最後になるが、検査、隔離、治療では、多くの医師、看護師などが必要とする医療のための用具や、感染防御のための用具が不足している。その中で、彼ら、彼女らは、文字通り懸命の努力をして、国民の生命を守るという崇高な責任を、立派に果たしている。
 せめて、その一部に報いるために、必要な用具は十分に供給すべきである。これは、最重要な対策である。
 彼ら、彼女らは、この感染症を乗り越えたとき、一段と高く尊い心を持つ人として、全国民からの尊崇の念を集めるだろう。

 いまの事態が、戦時に準ずるものとするなら、こうした用具の供給は、民間企業に要望するだけでなく、戦時中のように、政府が民間企業に生産を命じ、供出を義務づけたらどうか。戦時中、農業者は米の供出を義務づけられていた。
 あるいは、国民を動員して、国営企業で生産し供給したらどうか。
 戦時中は、10歳代の中学生や女学生まで動員されて、軍需工場で兵器を生産させられた。
 また、30年前の米の大凶作のときは、米は国家管理だったので、政府が米屋さんに要請して、店頭に米を山のように積み上げてもらった。そうして、国民を安心させ、買い溜めに走るなどの混乱を避けることができた。
 いまは緊急事態である。国家は、あらゆる手段を使って全ての感染者の苦痛を和らげる義務がある。

(2020.04.27)


(前回  天地を以て経文とす

(前々回 国民を犠牲にする安倍政権の危険な賭け


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