【JCA週報】2030年の森林環境と協同組合2020年4月27日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹 JA全中代表理事会長、副会長 本田英一 日本生協連代表理事会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、「2030年の農業と農協」です。協同組合研究誌「にじ」2020年春号に寄稿いただいた北海学院大学准教授 早尻正宏氏の論文を紹介します。
協同組合研究誌「にじ」2020年春号
2030年の森林環境と協同組合
早尻正宏 北海学園大学准教授
1.「持続可能な森林経営」に向けて
2030年は国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限であり、2020年代は「持続可能な森林経営」の実現に向かう大切な10年となる。
だが、この国の森林経営の現実は厳しい。
例えば、森林所有者が勤労者世帯と同水準の伐採収入を得るのに必要な面積は、スギ山元立木価格(林地に立つ1立方m当たりの樹木の価格で所有者の収入に相当)がピークを迎えた1980年には67.5ha(東京ドーム14個分)だったが、2017年には771ha(同164個分)に達している。勤労者世帯の収入水準を目指し、所有や経営の規模拡大を図る「近代化路線」はとうに現実味を失っているのである。
はたして日本林業はこの先、木材供給や国土保全、気候変動対策など社会が森林に期待する働きに応えつつ、「持続可能な森林経営」を実現できるだろうか。その成否は2000年代にあらわになった「資源」、「経済」、「社会」をめぐる諸状況に適切に対応できるかどうかにかかっている。
まず、「資源」についてみよう。スギやヒノキ、カラマツなど戦後一斉に植えられた人工林が収穫の時期を迎え、主要産地の北海道、東北、北関東、九州では一定のエリアの木を全て伐採する皆伐が広がる。他方で、伐採跡地の再造林(植え直し)が放棄されるケースが相次ぎ、森林が荒廃する懸念が持ち上がっている。
次に「経済」をみれば、「林業の成長産業化」のムード一色となり、木材供給量が増加する一方で、森林所有者の手取り収入となる立木価格の低迷が続いている。
そして「社会」を眺めると、足元の山村では、少子高齢化と都市部への人口流出による一層の過疎化という地域存続を揺るがす深刻な事態が進行中である。「山村の持続性」は「持続可能な森林経営」の前提条件であることから、山村の再生が喫緊の課題となっている。
このように「持続可能な森林経営」の道のりは険しい。こうした中で、国は、立木価格の低迷で経営意欲を失った森林所有者に変わる林業の担い手として、素材生産業者(森林資源の伐採・搬出を担う事業体)を積極的に位置付けようとしてきた。2019年(および2020年)はその政策的な画期として刻まれることになろう。
本稿では、まず、過去の推移を踏まえ、2020年代の林業情勢について現時点で見込まれることを整理する。次に、森林組合(森林所有者が組織・利用・運営する協同組合を取り巻く情勢とその意味を検討する。最後に、「持続可能な森林経営」の実現条件として、森林組合に求められる役割とは何かについて考えてみたい。
協同組合研究誌「にじ」 2020春号より
https://www.japan.coop/wp/publications/publication/niji
※ 論文そのものは、是非、「にじ」本冊でお読みください。
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