【坂本進一郎・ムラの角から】第33回 小さな村の大きな事件 そんな勇気はない2020年5月7日
小さな村とは大潟村のことで、大きな事件とは、大潟村の国有地に立った大潟神社のことを指している。このような事実、あるいはこのような事件のあったことはあまり知られていないと思われる。その意味でこの事件は埋もれた事件であり、埋もれた歴史といっていい。もっとも、当時村の中は神社は必要か、否かで揺れたこともあったので、それなりに話題になったことは確かである。だから目くじら立てるほどでもないのかもしれない。
神社建立は1978年(昭和53年)で、この年は青刈り騒動に揺れた年である。
神社建立をめぐっては、前年(昭和52年)の10月ころから賛成反対の声が飛び交うようになった。11月になって大潟神社建立奉賛会が説明会を行った。私は説明会場でのやり取りのメモを持っている。会場からはいろいろ質問、意見があった。その主なものを記してみる。
「我々は今次大戦で国家神道により苦い経験をしてきた。そういう時に、モデル農村で神社を建立する現代的意味は何か」
「神社より先に干拓記念館のほうが必要でないか」
「今日の説明でお宮は解体しても、普通は柱一本しか払い下げがないのに、一社丸々払い下げを受けたのは大潟村を含めて二件しかないと、自慢しているようだが、神社は今度の戦争責任をあいまいにしたままである。そのような組織に身をゆだねてもいいのか」
確かに伊勢神宮は瀧原並宮(たきはらのならびのみや)一棟を解体した時、無料で奉賛会に払い下げている。
会場の意見はまだある。
「伊勢神宮の別宮の古材を払い下げられたというが、伊勢神宮と大潟村とはどういう関係があるのか。祭神は天照大神、豊受大神、それに八郎太郎だが天照大神も豊受大神もいわば雲の上の人で、これに対して八郎太郎は国津神で地元の庶民の間を駆けずり回っているような土着の神だ。雲上人と土着人(神)とが一緒では八郎太郎は窮屈で居心地悪いので、祠(ほこら)でもいいから別なところに祭ってほしい。これは周辺の巫女の希望でもあるが」
この意見に触発されたか、次のように言う人も現れた。
「伊勢神宮の払い下げだから由緒あるのだという権威を借りて、奉賛会が押し付けるより、八郎太郎の伝承と共に祭りを行うーー、その伝承を子供に伝えたほうがいいのではないか」
この日の集会参加者は一握りの人数であった。この閑散とした人数は無関心、あるいは冷ややかな反応の現れか。この集会では神社を立てる理由がはっきりしなかったが、かといってそれに反対する理由もはっきりしない。
日本人の精神は柔構造で八百万の神を信ずるマンダラの精神。つまり神社はあってもなくてもよいぐらいの受け止めが普通の人の受け止め方なので、それが今日の集会に現れたのであろうか。
それは奉賛会が今日の説明会の冒頭に発表されたアンケート結果にも表れている。
アンケート結果によると、アンケートは昭和46年(1971年)の調査結果で、回収率60%、そのうち80%は建立に賛成している――というのが神社建立の根拠である。
では私にとって、神社建立の何が問題なのか。それは鎮守の森には反対でないが、神社建立の議論の過程で建立の場所、形式を含めて討論もコンセンサスもなく、ただ一方的に、決まったからといって寄付を集めて歩く姿が見られる。まずこの上意下達のやり方に違和感を感じる。次に今回は神社建立問題で寄付金(1戸5万円)のことが明るみに出たからいいものの、隣近所のよしみだからとうっかり寄付行為をするものなら、知らぬ間に伊勢神宮の氏子(うじこ)になっている恐ろしさがある(後述)。
確かに最後の切り札(訴訟)ということもある。しかし訴訟で自分の良心を満足させることはできても、ここまで仕上がった物件相手では"しんどい"そして"わずらわしい"という気持ちが、次の瞬間「誰かがやらなくてはならない問題」ではあるにせよなにも自分でなくても他の人がと思ってしまう。問題は"しんどさ"そして"わずらわしさ"の気持ちを克服できるか否かにかかっているのだろう。本当の農民というのは文章を一行でも多く書くより、一粒でも青刈りをさせない人のことを言うに違いない。果たして私はそれにあやかれるか。
◆明治時代の再来か
明治維新によって創出された明治国家の指導者にとって頭を悩ませた問題は、いっこくも早く統一国家を作ることにあった。この要請はペリー来航後現実のものになっていた。そこで、一方では中央集権的近代化思想が尊ばれ、他方で天皇制システムの推進が図られた。そこで脚光を浴びるのは吉田松陰の一君万民思想だ。
一君万民思想とは天皇一人に主権があって、国民(万民)相互は平等だという考えかたである。この考え方によって統一国家創出の仕掛けはできていく。しかし危険性もある。主権は天皇のみにありその天皇は「現人神」《人にして神》であり天皇制は、明治近代化の裏側を担っていく。天皇はもともと「玉」(国土の統治者)と「祭祀者」の二つの顔を持っている。特に天皇をして天皇たらしめているのは「祭祀者」としての顔だ。この結果天皇崇拝を利用して国家神道まで作り上げ、その後狭隘なナショナリズムを押し立てていき、それが第二次大戦へとつながっていくのである。
ではどうやって国家神道を作り出したのか。氏神信仰を利用したのである。徳川政権を引き継いだ明治時代には地域ごとに、氏神神社があった。氏神神社を中心に氏子は相互扶助と外敵の侵入から身を守った。当時氏神神社は伊勢神宮にピラミット型に組織され、従って氏神神社の氏子は一人残らず伊勢神宮の氏子になることを強制された。この結果、日本人全員が伊勢神宮の氏子とされた。国家神道がこの関係を保証した。
今回の氏子騒ぎで霊璽簿(れいじぼ)の扱いはどうなっているのか。霊璽簿は神社本庁で保管していて氏子は霊璽簿に記載される。つまり霊璽簿に記載された人は信徒ということになる。
本来新嘗祭は「村」のものであったが宮中に取られてからさびれてしまった。新嘗祭が村のものであれば大々的な祭りとなり、自給率の下がったことに気が付くこともあろう。
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