「密」がだめなら「疎」だね~【小松泰信・地方の眼力】2020年5月13日
日本農業新聞(5月13日付)は、農業者を中心とした同紙農政モニター1025人を対象に4月下旬から5月上旬に郵送で行った意識調査の結果概要を伝えている。回答者は733人、回答率は71.5%。新型コロナウイルスに関する問いへの、「どちらかといえば」を含む大別した評価結果は、次の2点である。
コロナまん延防止、終息に向けた政府の対応;「評価する」30.8%、「評価しない」66.0%。
農業経営などへの経済的打撃に対する政府の対策;「評価する」20.2%、「評価しない」67.4%。
明らかに、この間の政府の対応や対策は、7割近くの農業者に評価されていない。
◆安倍内閣、安倍農政不支持。評価される多様な生産基盤の強化と居住環境を意識した農村政策
この調査は、最近の農業者の意識を把握する上で、興味深い結果を多数教えている。概要は以下の通り。
(1)安倍内閣について;「支持する」37.5%、「支持しない」62.3%。
(2)安倍農政への評価(大別表示);「評価する」24.3%、「評価しない」68.2%。
(3)農業所得増大に向けた政策(大別表示);「評価する」16.3%、「評価しない」74.6%。
(4)食料自給率向上に向けた政府の取り組み(大別表示);「評価する」10.5%、「評価しない」82.9%。
(5)「食料国産率」指標を設けたこと(大別表示);「評価する」26.3%、「評価しない」56.8%。
(6)5兆円の輸出目標(大別表示);「評価する」36.5%、「評価しない」53.3%。
(7)大型自由貿易協定発効の影響(選択肢を集約);「影響なし」3.8%、「マイナスの影響あり」88.2%、「プラスの影響あり」0.3%。
(8)政府の農協改革について(大別表示);「評価する」25.2%、「評価しない」64.0%。
(9)規模や地域条件にかかわらず生産基盤の強化方針を出したこと(大別表示);「評価する」55.7%、「評価しない」35.2%。
(10)農村居住環境等条件整備と関係省庁の連携などの農村政策の方向(大別表示);「評価する」68.9%、「評価しない」22.6%。
(11)自民党支持率44.1%、自民党農政への期待率43.2%、年内に衆院選があった場合の自民党投票率38.6%。
上記の結果から、安倍内閣や安倍農政、そして一連の具体的政策などへの評価は惨憺たるものである。しかし、自民党に対する支持や期待は極めて堅固である。
なお今回の調査結果で注目すべきは、多様な農業者や農業生産条件を対象とする生産基盤強化策を5割強が、居住条件整備に注力する農村政策を7割近くが、それぞれ評価している点である。
◆図らずも節目を迎える地方分権一括法と過疎法
西日本新聞(5月12日付)で前田隆夫氏(同紙佐世保支局長)は、「コロナ問題で光が当たらなかったが、この4月は地方分権一括法の施行から20年の節目だった」ことを取り上げている。「一括法施行の後、地方分権は道半ばでトーンダウンした」ものの、いくつかの自治体における迅速なコロナ対策に注目し、コロナ終息後の社会の仕組みは、「きっと『密より疎』『集中から分散』に向かう」とし、「分権ののろし上げよう」と、檄を飛ばしている。
節目の年を迎えたのは、地方分権一括法だけではない。過疎地域自立促進特別措置法、いわゆる過疎法も、2021年3月末に期限切れとなる。
総務省の有識者らによる過疎問題懇談会(座長・宮口とし迪(としみち)早稲田大学名誉教授)は4月17日に「新たな過疎対策に向けて~過疎地域の持続的な発展の実現~」と題する最終報告書を公表した。(※とし迪氏の「とし」は人偏に同・異体文字)
「はじめに」において、「(過疎地域が)地域資源をさらに高度に活用して、都市にはない価値を蓄積していくことができれば、わが国は多様な空間の価値の上に発展的な国土を構築することができる」として、「先進的な少数社会」を過疎地域の目指すコンセプトに掲げている。
施策は、「地域、住民、学校の連携による人材の育成」「人の流れと人と地域のつながりの創出」「働く場の創出」「再生可能エネルギーの活用」「革新的な技術の活用」「地域運営組織と集落ネットワーク圏(小さな拠点)の推進」「市町村間の広域連携と都道府県による補完」「目標設定とフォローアップ」で構成されている。
それぞれの地域特性を踏まえて、できるところから取り組むことになるが、農業協同組合や森林組合といった既存の協同組織への言及がまったくなされていない点が、気になるところではある。
とは言え、この報告書の価値は、「過疎」対策を超え、コロナ禍があぶり出した「過密」社会の脆弱性、危険性を薄める、さらには解消するためのひとつの処方箋を示しているところである。
「むすびに」にも、コロナ禍を契機に「都市への過度の集中は大規模な災害や感染症発生の際のリスクを伴う。都市とは別の価値を持つ低密度な居住空間がしっかりと存在することが国の底力ではないかと、改めて考えざるを得ない」と記されている。
◆過疎法への期待
中国新聞(5月9日付)の社説は、「『過疎』の言葉を生んだ中国山地などに財政支援の手を差し伸べた最初の法制定から、半世紀。既に日本全体が人口減の局面に入っている。今回の提言を一つの手掛かりとして、過疎地域の支援策に新たな地平を切り開いてもらいたい」と、大きな期待を寄せる。その上で、「問題は、それを誰がやるのか―ということに尽きる」と自問し、「地域の個性を見いだすときに、よそから関わり続ける『関係人口』や移住者といった門外漢の視点は糸口になり得る」と自答する。
河北新報(5月4日付)の社説も、本格的な人口減少局面に入ってから、過疎法に求められる役割も大きく変わっていくとみるべきとして、「都市集中の『過密』リスクが、かつてないほど顕在化している。与党には大局観を持って地方分権の推進や地域産業の高度化など、あらゆる施策を動員して均衡ある国土形成につなげていく議論を期待したい」とする。さらに、「大都市に暮らす人々に対しては、各地に根差す多様な文化や生態系の保全、大都市の被災低減など、国民に共通する過疎地域の価値に目を向けてもらうことが重要だ」と提言する。
日本農業新聞(5月8日付)の論説は、「人口の少ない地域の存在の重要性など、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われている日本社会全体への提言が凝縮されている。過疎新法の制定に向け過疎地域の価値と役割を共有したい」とする。その上で、「コロナ禍の最中に、過疎地域が都市を支える存在であることを、国民全体で共有すること」を求めている。
これからは、「密です、密です」と警告を発する人には、「疎だね~、疎だね~」と言ってやる。
「地方の眼力」なめんなよ
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